著者の所属・活動拠点の国は、イギリスです。
掲載誌:Food and Humanity
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
寮やシェアハウスで台所を共用する大学生は、不規則な生活時間、限られた予算、共用の冷蔵庫や調理器具といった条件のもとで食事を用意しています。これまでの研究では、若い世代は食品衛生の正しい原則を知っていても、日常ではそれを守りきれない「知識と行動のずれ」がしばしば報告されてきました。
この研究で著者らは、英国の大学に通う学生を対象に、食品衛生に関する知識と、自己申告による実際の調理・保存の習慣を調べました。あわせて、共用キッチンという環境や、食物アレルギーの原因となる成分(アレルゲン)を扱うことへの自信が、行動とどのように関係しているかを探りました。研究チームは、知識が中程度あっても行動は一貫しないこと、そして冷蔵庫の混雑や時間の制約といった環境面の制約が知識以上に行動に影響することを仮説として掲げていました。
調べたこと
調査はオンラインのアンケートで行われ、103人の学生が回答しました。知識については、冷蔵庫を5℃以下に保つこと、生の食材から他の食品へ菌が移る「交差汚染」、加熱調理の適切な温度、アレルゲン表示の読み方、食品の傷みの見分け方を尋ねました。行動については、消費期限の確認、調理前の手洗い、生の食材とそのまま食べる食品の分離、食べ残しの扱いなどを尋ねています。
さらに、回答者のうち3人に聞き取り調査を行い、共用キッチンで実際にどのような困りごとや工夫があるのかを補足的に調べました。なお著者らは、参加者が自発的に応じた単一大学の小規模な調査であり、統計解析の結果は確定的なものではなく探索的なものとして解釈すべきだと述べています。
主な結果
知識の水準は項目によってばらつきがありました。交差汚染の危険を理解していた学生は84%と多かった一方、冷蔵庫を5℃以下に保つことを支持したのは64%、アレルゲン表示を理解していたのは68%、傷みの兆候を見分けられたのは62%で、加熱調理の適切な温度を知っていたのは56%と最も低い結果でした。
行動の面では、知識とのずれがはっきり表れました。消費期限を「いつも」または「よく」確認すると答えた学生は82%でしたが、生の食材とそのまま食べる食品とでまな板を使い分けていたのは51%にとどまりました。交差汚染の危険を知っている学生は84%いたにもかかわらず、この差が見られたことを著者らは知識と行動のずれの典型として挙げています。調理前の手洗いを常に、またはよく行う学生は68%でした。食べ残しについては、2時間以内に冷蔵庫へ入れる人が34%、日付を書いておく人が15%などと、対応はまちまちでした。
統計解析では、女性の学生は男性に比べて安全な習慣を報告する見込み(オッズ)が約4.9倍高く、共用の住まいで暮らす学生は安全な習慣を報告する見込みが低いという関連が示されました。また、アレルゲン表示についての認識そのものは行動と独立した関連を示さなかった一方、アレルゲンを扱うことへの自信が1段階高まるごとに、安全な習慣を報告する見込みが45%高まるという関連が報告されています。
聞き取りでは、においや見た目で傷んでいるかを判断するという声や、同居人が生の肉を自分の調理済み食品の上の段に置いていた、まな板を共用しているので自分専用にした、といった具体的な体験が語られました。限られた冷蔵庫の空きに対して、ラベルを貼った密閉容器や棚の使い分けで対処する学生もいました。
研究が示すこと
著者らは、学生の食品衛生行動は知識不足だけで説明できるものではなく、本人の能力や自信と、共用キッチンで実際に安全な行動をとれる環境が組み合わさって形づくられていると考察しています。狭い冷蔵庫や共用の調理器具、掃除の担当があいまいなことなどが、知っていても実行しにくい状況を生んでいるという見方です。
そのうえで研究チームは、大学が取り組みやすい低コストの対策として、入居時の短い研修、アレルゲン情報の分かりやすい伝達、棚の割り当てや掲示、温度計の設置といった台所の整備を挙げています。正しい知識を教えるだけでなく、それを実行しやすい環境を整えることが大切だという点が、この研究から伝わる主なメッセージです。
原著論文の著者・所属:Oluwaseyi J. Oyeniran(School of Geography, Earth and Environmental Sciences, University of Birmingham, Edgbaston, Birmingham, UK)、Laura-Jayne A. Ellis (Bradford)(School of Geography, Earth and Environmental Sciences , University of Birmingham , Edgbaston , Birmingham , UK)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Oluwaseyi J. Oyeniran, Laura-Jayne A. Ellis (Bradford). Food safety knowledge, behavior, and allergen confidence among university students in shared-kitchen settings. Food and Humanity 2026-09-29. DOI: 10.1016/j.foohum.2026.101539. 原著ライセンス:CC BY.