著者の所属・活動拠点の国は、トルコ、インド、ポーランド、イタリア、ハンガリーです。
掲載誌:Frontiers in Microbiology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
ヨーグルトや発酵飲料などに含まれる「プロバイオティクス」(腸内環境などに関わるとされる生きた微生物)は、製造・保存の過程で数が減ってしまうことが課題とされています。加熱処理は殺菌や品質保持に役立つ一方で、生きた菌自体にはダメージを与えやすいこともあり、近年は加熱を伴わない「非熱処理技術」を使って菌の生存性を保とうとする研究が進んでいます。今回紹介するのは、こうした非熱処理技術がさまざまな食品の中でプロバイオティクスの生存性や機能にどう影響するかを、既存の研究をまとめて整理したレビュー論文です。
研究でわかったこと
この論文は、査読を経た関連研究を検索・収集し、条件に合う原著論文を対象に内容を整理したレビューです。非熱処理技術が、菌の種類や食品の種類によって、プロバイオティクスの生存性・代謝の安定性・機能性にどのような定量的効果を与えるかを比較検討しています。
紹介されている例の一つは、キビ(millet)を原料にした発酵飲料に乳酸菌の一種であるLactiplantibacillus plantarumを加え、超音波を使って発酵を助けた研究です。この処理により、発酵にかかる時間が最大で約2.6倍短縮され、特定の処理条件下では生菌数がおよそ1〜1.5 log CFU/mL向上したと報告されています。
また、200〜300メガパスカル(MPa)という高い水圧をかける「高圧処理」では、特定の食品において菌数が維持されたとされています。さらに、パルス電界(電気の短いパルス)を使った前処理をスプレードライ(噴霧乾燥)の工程に組み合わせた特定のプロトコルでは、菌の細胞内にあるトレハロースという物質の濃度が約100mMまで高まり、生存率がおよそ75%に達したことが示されています。
このほか、菌をマイクロカプセルで包んで保護する技術や、バクテリオファージ(細菌に感染するウイルス)関連の応用を含む生物学的なアプローチも、加工中のストレスから菌を守る手段として挙げられています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この論文は、著者らが独自に新しい実験を行ったものではなく、既存の研究成果を集めて比較・整理したレビュー(総説)です。紹介されている生存率や処理条件の数値は、それぞれ異なる研究・異なる菌株・異なる食品を対象にしたものであり、同じ条件で全ての菌に同様の効果が得られるとは限りません。実際にこのレビューでも、非熱処理技術の効果は菌株ごとの違いが大きく、食品ごとに処理条件を細かく最適化する必要があると結論づけられています。
また、ここで触れられている生存率の向上や機能性への影響は、あくまで「特定の処理条件下」での報告であり、実際の食品全般や日常的な摂取における健康効果を保証するものではない点にも注意が必要です。
まとめ
この論文は、超音波、高圧処理、パルス電界処理といった非熱処理技術が、条件によってはプロバイオティクスの生存性や機能性を高める可能性を示す一方で、その効果は菌の種類や食品の種類に強く左右されることを整理したレビューです。今後、こうした技術の実用化に向けては、菌株ごと・食品ごとの条件の最適化がさらに重要になってくると考えられます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):様々な食品におけるプロバイオティクスの生存性に影響する要因:現在の知見のレビュー(フロンティアーズ・イン・マイクロバイオロジー・2026年07月)
著者:Ilkin Sengun(Food Engineering Department, Engineering Faculty, Ege University, Izmir, Bornova, Türkiye)、Aysegul Kirmizigul Peker(Food Engineering Department, Engineering Faculty, Ege University, Izmir, Bornova, Türkiye)、Heena Sharma(Food Technology Lab, Dairy Technology Division, ICAR-National Dairy Research Institute, Karnal, Haryana, India)、Nikheel Bhojraj Rathod(Department of Meat and Marine Sciences, CSIR-Central Food Technological Research Institute, Mysuru, India)、Tanaji G. Kudre(Department of Meat and Marine Sciences, CSIR-Central Food Technological Research Institute, Mysuru, India)、Andrzej Szymkowiak(Department of Commerce and Marketing, Institute of Marketing, Poznań University of Economics and Business, Poznań, Poland)、Piotr Kulawik(Department of Animal Products Technology, Faculty of Food Technology, University of Agriculture, Kraków, Poland)、Giulia Tabanelli(Department of Agricultural and Food Sciences, University of Bologna, Bologna, Italy)、Duygu Ağagündüz(Department of Nutrition and Dietetics, Gazi University, Ankara, Türkiye)、Ferenc Budán(Medical School, Institute of Physiology, University of Pécs, Pécs, Hungary)、Fatih Ozogul(Department of Seafood Processing Technology, Faculty of Fisheries, Cukurova University, Adana, Türkiye)