著者の所属・活動拠点の国は、アイルランドです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
パンは毎日のように食卓に上る主食ですが、実は欧州をはじめ世界的に見て、私たちが口にする食塩(ナトリウム)の主要な供給源のひとつになっていると言われています。塩分の摂りすぎは心血管疾患などのリスクを高める要因として知られており、パンの塩分をどこまで減らせるのかは、食品科学における重要なテーマのひとつです。しかし、パン作りにおいて塩は味付けだけでなく、生地のグルテンネットワークの形成や発酵の進み方、焼き上がりの品質にも関わっているため、単純に減らせばよいというわけではありません。今回紹介する研究では、この『塩を減らしつつパンの品質を保てるか』という課題に、食物繊維の強化という視点も加えて取り組んでいます。
研究でわかったこと
この研究では、精製小麦粉(コントロール)、食物繊維を強化した小麦粉、全粒粉という3種類の小麦粉を使い、それぞれに塩化ナトリウム(食塩)を1.2%、0.6%、0.3%、0%(いずれも重量比)の4段階で加えたパン生地を作成し、比較が行われました。生地の性質については、グルテンネットワークの発達具合を調べる『GlutoPeak分析』と、酵母発酵の進み方を調べる『Rheofermentometer(レオファーメントメーター)試験』という手法で評価されています。さらに焼き上がったパンについても、比容積(膨らみ具合の指標)、クラム(パンの内側の質感)のテクスチャー、気泡構造、経時的な硬化(劣化)の速さ、水分活性といった観点から品質が調べられました。
その結果、どの小麦粉タイプにおいても、0.6%という塩分濃度が、生地の機能性とパンの品質のバランスにおいて技術的に最も優れた濃度として位置づけられたと報告されています。これは、一般的な工業的な配合とされる1.2%と比べて塩分を50%削減した水準にあたり、それでも技術的なパン品質は許容できる範囲に保たれたとされています。加えてこの研究では、0.6%の塩分と食物繊維の強化を組み合わせた白小麦パンの配合開発にも取り組み、食物繊維量を通常のパン(100gあたり3.8g)から100gあたり9.3gまで高めることに成功したとしています。塩分削減と食物繊維強化という、食生活における2つの課題――塩分の摂りすぎと食物繊維の不足――に同時にアプローチする『二重の改良戦略』として位置づけられている点が、この研究のユニークなところです。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、特定の実験条件(使用した小麦粉の種類や配合、測定方法など)のもとで得られた結果であり、ひとつの研究として紹介するものです。今回の結果がすべてのパンの製法や、実際に店頭に並ぶ製品にそのまま当てはまるとは限りません。また、この記事で紹介しているのは生地の物性やパンの物理的な品質に関する評価であり、味や食感の実際の好み、あるいは健康への効果を直接検証したものではない点にも留意が必要です。塩分削減や食物繊維強化が健康に及ぼす影響については、この研究のみで結論づけられるものではなく、今後のさらなる研究の積み重ねが必要と考えられます。
まとめ
今回紹介した研究では、精製小麦粉・食物繊維強化小麦粉・全粒粉という3種類の生地において、塩分を0.6%まで減らしても生地の機能性とパンの品質のバランスが技術的に良好に保たれることが示されました。さらに、塩分削減と食物繊維強化を組み合わせたパンの開発にも成功したと報告されており、日常的に消費されるパンという主食を通じて、塩分と食物繊維という2つの栄養課題に同時に取り組む可能性を示唆する研究といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):食物繊維強化白小麦パンの生地レオロジーとパン品質に対する塩化ナトリウム削減の影響(フーズ・2026年07月)
著者:Sabrina Boudrag(School of Food and Nutritional Sciences, University College Cork, College Road, T12 YN60 Cork, Ireland)、Elke K. Arendt(School of Food and Nutritional Sciences, University College Cork, College Road, T12 YN60 Cork, Ireland)、Emanuele Zannini(School of Food and Nutritional Sciences, University College Cork, College Road, T12 YN60 Cork, Ireland)