肉や穀物、乳製品、野菜や果物といった日々の食事は、体内で最終的に「酸性」または「アルカリ性」寄りの代謝産物を生み出すと考えられています。この食事全体の酸性度合いを数値化したものが「食事性酸負荷」と呼ばれる指標で、代表的なものに「潜在的腎臓酸負荷(PRAL)」や「正味内因性酸産生量(NEAP)」があります。近年、こうした食事性酸負荷が体のさまざまな健康指標と関連する可能性が研究されていますが、睡眠との関係、とりわけ中東地域の人々を対象にした研究は限られていました。さらに、体内の「酸化ストレス」(細胞を傷つける活性酸素などによる負荷)と睡眠との関連を調べた研究はこれまでなかったといいます。今回紹介する研究は、この2つのテーマ、食事性酸負荷と酸化ストレスの両方が、睡眠の質や睡眠時間とどう関係するのかを、まとめて調べたものです。
研究でわかったこと
この研究は、イランの成人536人(うち男性289人、平均年齢42.59歳)を対象とした横断研究(ある一時点での状態を調べる研究)です。食事内容は168項目からなる食物摂取頻度調査票を用いて評価され、そこから食事性酸負荷の指標であるPRALとNEAPが算出されました。また、参加者は12時間の絶食後に採血を行い、酸化ストレスに関連する血液中の指標(マロンジアルデヒド[MDA]やグルタチオンペルオキシダーゼ[GPx]など)が測定されました。睡眠の質と睡眠時間は、広く使われているピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)によって評価されています。
解析の結果、PRALやNEAPの値が高い群(全体を3つに分けたうちの中間・上位グループ)は、最も低いグループと比べて、睡眠時間が短くなる傾向がみられるオッズ(なりやすさの指標)が高いという関連が示されました。具体的には、PRALが中間グループで約1.79倍、上位グループで約2.47倍、NEAPが中間グループで約2.07倍、上位グループで約2.58倍、それぞれ睡眠時間が短くなる傾向と関連していたと報告されています。また、睡眠の質についても、PRALとNEAPがともに最も高いグループでは、最も低いグループに比べて睡眠の質が低くなる傾向のオッズが約1.7倍高いという関連がみられました。これらの結果は、他の影響要因を調整した上での分析によるものです。
さらに酸化ストレスの指標との関連もみられ、MDAの値が高い場合(185 nmol/mL超)や、GPxの値が低い場合(0.70 mU/mL未満)には、睡眠の質が低くなる傾向のオッズが高いことが示されました。ただし、この酸化ストレス指標と睡眠の質との関連は、値が増えるほど直線的に強まるというよりも、非直線的な関係だったと報告されています。なお、こうした食事性酸負荷と睡眠の関連は、特に体重が重め(過体重・肥満)の人でより明確だったとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、ある一時点での食事内容・血液指標・睡眠状態を調べた横断研究であり、「酸性寄りの食事をとると睡眠が悪くなる」という因果関係を直接証明するものではありません。あくまで、食事性酸負荷や酸化ストレスの指標が高い人ほど、睡眠に関する問題を抱えている傾向が統計的にみられた、という関連性を示したものです。また、対象はイランの成人536人に限られており、他の集団でも同様の傾向がみられるかどうかは、この研究だけでは分かりません。一つの研究の結果であり、これによって結論が確定したわけではない点に留意して読む必要があります。
まとめ
今回紹介した研究では、食事の酸性度合いを示すPRALやNEAPという指標が高い人ほど、睡眠時間が短くなったり睡眠の質が低くなったりする傾向のなりやすさが高いという関連が報告されました。また、酸化ストレスを示す血液指標(MDAの上昇やGPxの低下)も、睡眠の質の低下と関連することが示唆されています。食事内容と睡眠の質・量との関係を考えるうえで、一つの手がかりとなる研究といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:イラン成人における食事性酸負荷・酸化ストレスと睡眠の質・睡眠時間との関連(サイエンティフィック・リポーツ・2026年07月)