この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Plants (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の背景と目的
イネには、一度目の収穫のあとに刈り株に残った芽が伸びて、もう一度実らせる「再生二期作(再生稲)」という栽培法があります。中国・四川盆地では気候の温暖化にともなって再生稲を育てられる期間が延び、栽培に適した地域が北や西へ広がってきたと、これまでの研究で報告されています。田んぼを増やさずに年二回の収穫ができるため、食料の安定供給につながる方法として注目されてきました。
一方で、研究チームは複数の課題を挙げています。ひとつは水田土壌のカドミウム(Cd)汚染です。米を主食とする地域では、米が食事由来のカドミウム摂取の主要な経路のひとつになるとされています。もうひとつは、畜産業の拡大にともなう良質な飼料の不足で、限られた農地をめぐって穀物生産と飼料生産が競合している点です。
そこで近年提案されたのが、一期作目をまるごと刈り取って発酵飼料(サイレージ)にし、二期作目の再生稲で米を収穫するという「飼料+再生稲」方式です。一期作目を約20日早く刈り取ることで再生稲の生育期間が延び、熱や日射といった資源をより有効に使えるという利点も見込まれています。ただし、この方式に適した品種を選ぶ基準はまだ確立されていませんでした。本研究の目的は、中国南西部で広く栽培されている25品種について、生育期間、再生力、飼料としての収量と品質、再生稲の米の収量、カドミウムの蓄積を体系的に評価し、この方式に向く品種を見きわめることです。
調べ方
試験は2024年、四川省綿竹市の圃場で行われました。3月に播種、4月に田植えを行い、最も成熟の遅い品種は10月28日に収穫しています。供試したのは中国南西部で広く栽培されている25品種です。
比較したのは三つの栽培体系です。一期作だけで米をとる「中稲単作」、一期作目も二期作目も米をとる「中稲+再生稲」、そして一期作目を飼料として刈り取り二期作目で米をとる「飼料+再生稲」です。飼料として刈り取る際には、出穂が揃った15日後に、地表から5センチ・15センチ・25センチという三通りの高さで刈り、残した株から再生させました。
測定項目は、生育日数、刈り株の数と生存率、株あたりの再生芽の数(再生力)、米の収量とその構成要素、玄米中のカドミウム濃度、飼料の乾物重、そして飼料の品質(粗タンパク質、繊維成分、デンプンなどから算出する相対飼料価値=RFV)です。最後に、これら複数の指標をまとめて扱う主成分分析という統計手法を使い、品種の総合的な適性を評価しています。
主な報告結果
生育期間には品種差がありました。中稲単作での生育日数は155〜163日と最大8日差でしたが、再生稲の生育日数は63〜103日と40日もの開きがあり、「飼料+再生稲」方式の全体では199〜239日の幅になりました。
収量面で目を引くのは、両方式の対比です。「飼料+再生稲」では25品種すべてが飼料収穫後に再生し、登熟を終えて米を収穫できました(2.23〜11.00 t/ha)。これに対し「中稲+再生稲」では、25品種のうち11品種が正常に登熟できず、残る14品種も2.29〜7.08 t/haにとどまったと報告されています。相関の分析では、「飼料+再生稲」方式の米の収量は、穂の数よりも稔実率(籾が実る割合)と最も強く関係していました。また、一期作目の飼料収量と二期作目の米の収量のあいだには負の相関が見られ、両者を同時に最大化するのは難しいというトレードオフが示されています。
カドミウムについては、試験圃場の有効態カドミウムは0.3780 mg/kg、土壌pHは6.75でした。玄米中の濃度は、中稲単作で0.0820〜0.3138 mg/kgだったのに対し、「飼料+再生稲」では0.0364〜0.1190 mg/kgとなり、品種ごとに33.03〜80.06%、平均で54.11%低下したと報告されています。研究チームはこの低下について、登熟が完了する前に地上部を刈り取ることで、茎葉に蓄えられていたカドミウムの相当部分が持ち出され、籾への移行が減ったためではないかと考察しています。なお、刈り取った飼料自体のカドミウム濃度は測定していないため、飼料としての安全性はこの研究では評価できないと、著者ら自身が限界として明記しています。
飼料の収量は、刈り高が高くなるほど減りました。5センチ刈りに比べ、15センチ刈りでは平均13.90%、25センチ刈りでは19.40%の乾物重の減少です。品質については、広く栽培されている11品種を詳しく調べたところ、粗タンパク質は全品種が中国の飼料用トウモロコシ品質基準の1級(7%以上)を満たしました。総合指標であるRFVはXLY16が最も高く、CKY637が最も低い値でした。
主成分分析では、飼料収量・カドミウム濃度・RFV・再生力・再生稲収量の五つを指標に順位づけを行っています。総合得点が最も高かったのはCKY637でしたが、この品種は飼料収量とRFVが低いため、著者らは「全面的に最適な品種」ではなく特定の長所をもつ候補にとどまると述べています。むしろCKYSMとFY498が全項目でバランスのとれた成績を示し、今後この方式の栽培法を詰めていくうえでの有望な材料になりうると位置づけられました。
この研究が示すこと
研究チームは、この方式に適した品種の条件として、総生育日数がおおむね200日以内であること、再生力が1.5を超えること、刈り株の生存率がほぼ100%であることなど、複数の目安を挙げています。ただしこれらは選抜の際の参考となる基準であって、厳密な合格ラインではないとも断っています。
この研究が伝えているのは、単一の形質を最大化するのではなく、飼料の量と質、再生力、米の収量、カドミウム蓄積の低さのあいだで釣り合いをとることが、この生産体系に向く品種の鍵になる、という見方です。同時に、飼料そのものの安全性の評価が残された課題であることも、著者ら自身の言葉としてはっきり示されています。
著者:Chen G(Crop Research Institute of the Sichuan Academy of Agricultural Sciences, Chengdu 610066, China.; Sichuan Provincial Key Laboratory of Green Germplasm Innovation and Genetic Improvement for Grain and Oil Crops, Chengdu 611130, China.)、Yang L(College of Agronomy, Chengdu Agricultural College, Chengdu 611130, China.)、Zhang L(Crop Research Institute of the Sichuan Academy of Agricultural Sciences, Chengdu 610066, China.; Sichuan Provincial Key Laboratory of Green Germplasm Innovation and Genetic Improvement for Grain and Oil Crops, Chengdu 611130, China.)、Zhu C(Crop Research Institute of the Sichuan Academy of Agricultural Sciences, Chengdu 610066, China.; Sichuan Provincial Key Laboratory of Green Germplasm Innovation and Genetic Improvement for Grain and Oil Crops, Chengdu 611130, China.)、Li W(Crop Research Institute of the Sichuan Academy of Agricultural Sciences, Chengdu 610066, China.)、Yang H(College of Agronomy, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China.)、Li Z(College of Agronomy, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China.)、Zhang Y(College of Agronomy, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China.)、Xiao B(Crop Research Institute of the Sichuan Academy of Agricultural Sciences, Chengdu 610066, China.)、Yu J(Crop Research Institute of the Sichuan Academy of Agricultural Sciences, Chengdu 610066, China.)、Li T(College of Agronomy, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China.)、Li X(Crop Research Institute of the Sichuan Academy of Agricultural Sciences, Chengdu 610066, China.; Sichuan Provincial Key Laboratory of Green Germplasm Innovation and Genetic Improvement for Grain and Oil Crops, Chengdu 611130, China.)、Ouyang Y(Crop Research Institute of the Sichuan Academy of Agricultural Sciences, Chengdu 610066, China.; Sichuan Provincial Key Laboratory of Green Germplasm Innovation and Genetic Improvement for Grain and Oil Crops, Chengdu 611130, China.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Chen G, Yang L, Zhang L, et al. Evaluation and Selection of Rice Cultivars for Dual-Purpose Grain and Forage Production System. Plants (Basel, Switzerland) 2026-09-06. DOI: 10.3390/plants15172725. 原著ライセンス:CC BY.