「健康的な食事を心がけましょう」と言われると、多くの人は野菜や魚、果物を積極的に摂ることを思い浮かべるでしょう。実際、こうした食品は栄養バランスの面で推奨されています。しかし食べ物は同時に、環境中の化学物質を体内に取り込む経路にもなり得ます。野菜には土壌由来の成分が、魚介類には海洋環境由来の物質が含まれることがあるためです。では、栄養学的に「質が高い」とされる食事は、化学物質への曝露という観点から見ても本当に望ましいと言えるのでしょうか。この素朴だが重要な疑問に取り組んだのが、今回紹介する研究です。
研究の概要:食事の質と体内の化学物質量を比較
この研究では、米国の代表的な健康調査であるNHANES(全米健康栄養調査)のデータが用いられました。2017年から2020年のデータ(4944人)を中心に解析し、2013年から2020年までのより長期間・大規模なデータ(1万1739人)でも結果の再現性が確認されています。食事の質は「健康的食事指数2020(HEI-2020)」というスコアで評価され、このスコアと尿や血液中に含まれるさまざまな化学物質の濃度との関連が、統計モデルを用いて調べられました。
研究でわかったこと
解析の結果、HEI-2020スコアが高い人、つまり食事の質が栄養学的に良好とされる人ほど、尿中の硝酸塩、尿中のヒ素、血中の水銀の濃度が高い傾向にあることが示されました。一方で、血中のカドミウムと、フッ素化合物の一種であるペルフルオロノナン酸については、食事の質が高いほど濃度が低い傾向が見られました。ヒ素と水銀については、単純な比例関係ではなく、複雑な(直線的でない)パターンを示すことも報告されています。
さらに、どの食品がこれらの関連に関わっているかを詳しく調べたところ、野菜や葉物類が硝酸塩との関連に大きく寄与していること、魚介類や植物性たんぱく質が水銀やヒ素との関連に関係していること、そして果物類の摂取がカドミウムの濃度の低さと関連していることが示唆されました。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、あくまで米国の集団を対象とした一つの調査であり、食事の質と化学物質曝露との「関連」を示したものです。因果関係を直接証明するものではなく、また日本を含む他の国・地域でも同様の傾向が見られるかどうかは、この論文の要旨だけからは判断できません。研究チームは、健康的とされる食事パターンが有益な栄養素をもたらす一方で、特定の汚染物質への曝露を高める可能性もあると考察しており、栄養面と環境保健の両方を考慮した統合的な戦略の必要性を指摘しています。
まとめ
今回紹介した研究は、「健康的な食事」と一括りにされがちなものが、栄養面だけでなく化学物質曝露という別の側面も持ち合わせている可能性を示すものです。野菜や魚介類、果物といった食品が、良い面と気をつけるべき面の両方に関わりうるという結果は、食と健康の関係の奥深さを改めて感じさせます。今後、こうした知見がどのように積み重なっていくか、注目したいところです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:食事の質と複数の化学物質曝露との関連(エコトキシコロジー・アンド・エンバイロメンタル・セーフティ・2026年08月掲載予定)