ヨウ素は、海に囲まれた日本の食卓には欠かせないミネラルです。甲状腺という喉元の器官でホルモンの材料になり、そのホルモンは成長や発達、そしてエネルギー代謝に関わっています。体を動かすエンジンの調整に使われる部品、とイメージすると分かりやすいかもしれません。1日の推奨量は成人(18歳以上)で男女ともに140µgです。ところが日本食品標準成分表を見ると、刻み昆布は可食部100gあたりヨウ素230000µgと、推奨量の約1643倍という桁外れの数値を記録します。しかもこの量は、耐容上限量(摂りすぎに注意すべき上限)とされる3000µg/日の約76.7倍にあたります。「昆布は危険な食品なのか」と身構えたくなる数字ですが、答えは実際に食べる量を見れば見えてきます。
「一口」に換算して初めて見える数字
刻み昆布の目安量は1人分約5gです。5gを食べたときの摂取量は単純計算で約11500µg——それでも耐容上限量の約3.8倍です。ここで重要なのは、昆布に含まれるヨウ素は食卓塩に添加されたヨウ化物より吸収率が低いと報告されている点です。さらに大豆製品がヨウ素の利用を妨げる報告もあり、成人の耐容上限量3000µg/日はこうした背景を踏まえて設定されています。だしを取ってその昆布自体は食べない、佃煮をご飯にひとつまみのせる程度といった、日本人の伝統的な昆布の使い方は、この「罠」を実質的に回避してきた食べ方だったとも言えそうです。目安量に換算して初めて意味を持つ、という読み方の癖をここで押さえておきたいところです。
2位・3位も同じ構図、突出した一族
ながこんぶ 素干しはヨウ素210000µg(推奨量の約1500倍、上限の約70.0倍)、まこんぶ 素干し 乾は200000µg(推奨量の約1429倍、上限の約66.7倍)と、いずれも100gあたりで見れば上限を大きく超えます。ただしまこんぶには「5cm角で約2g」「素干し10cm角1枚で約10g」という現実的な目安量が示されており、10cm角1枚(約10g)を食べた場合でも摂取量は約20000µgとなり、耐容上限量3000µgの約6.7倍に達します。だしがら1枚でも口にすれば上限を超えうる、という点は押さえておきたいところです。この2品に共通するのはヨウ素だけでなく、カリウム(ながこんぶ5200mg、まこんぶ6100mg。いずれも100gあたりの値です)やマグネシウム(ながこんぶ700mg、まこんぶ530mg。いずれも100gあたりの値です)も豊富だということです。こんぶ類は「ヨウ素だけの食品」ではなく、複数のミネラルを併せ持つ食品だと分かります。まこんぶだけはクロムという微量元素も比較的多く含み、糖・脂質・たんぱく質の代謝への関与が知られていますが、必須性についてはまだ議論があるとされています。
4位タイのひじきで、話は少し転じる
ここまで「数字の大きさ→実は適量」の流れを追ってきましたが、4位タイのほしひじき(ステンレス釜)とほしひじき(鉄釜)は、こんぶ類より一段少ないヨウ素45000µg(推奨量の約321倍、上限の約15.0倍)です。カリウム6400mg(100gあたり)はステンレス釜・鉄釜のどちらにも共通する値ですが、鉄釜のひじきはさらに鉄58mg(100gあたり)が突出して多いという違いがあります。加工に使う釜の違いが鉄の数値に表れているとも読めますが、いずれにせよ目安量は1人分約10g、大さじ1杯なら約3gほどです。乾物を戻してから使うのが一般的なため、ヨウ素の実際の摂取量はさらに現実的な範囲に収まります。ひじきはヒ素を比較的多く含む食品としても知られ、水戻しやゆでこぼしで無機ヒ素を減らせるとされていますが、通常の摂取範囲で健康被害が生じたという報告はないとされています。
数字の向こうにある一本の糸
上位5食品を並べて見えてくるのは、「100gあたりの数値は、そのままでは実際の食卓を映していない」という一つの糸です。刻み昆布もながこんぶもまこんぶもひじきも、100gあたりでは軒並み耐容上限量を超えますが、だし・佃煮・煮物の具といった日常的な使われ方をしても、推奨量140µgを大きく上回るのが実際のところです。ただし、目安量どおりに食べても上限を超える場合がある点には注意が必要です。たとえばまこんぶの素干し10cm角1枚(約10g)でも耐容上限量の約6.7倍に達します。だしを取って昆布自体は食べない、佃煮をひとつまみといった食べ方であれば実際の摂取量はより抑えられますが、100gあたりの数字がそのまま食卓での摂取量になるわけでもありません。日本人は昆布をはじめとする海藻をよく食べる、世界でも珍しいほどヨウ素摂取量が多い集団だとされていますが、目安量どおりに使っても推奨量を大きく超え、食べ方によっては耐容上限量に達する場合もあります。海藻のヨウ素表示を見るときは、100gあたりの数字だけで安心も心配もせず、自分がひとさじ・ひとつまみ、どれだけ使うかを思い浮かべつつ、極端な多食や毎日の連用は避けることが実用的な付き合い方だと言えそうです。
※甲状腺疾患のある方は、ヨウ素の摂取について医師にご相談ください。本記事は特定の食品の効果を示すものではありません。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)のデータ等をもとに作成しました。
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準