「野菜をしっかり食べると歯の健康にもいいらしい」——そんな話を耳にしたことがある人もいるかもしれません。実際、これまでの研究でも果物や野菜の摂取と口腔の健康との関連が指摘されてきました。しかし、もともとの歯の残り具合(歯列の状態)によって、その後の歯の喪失の進み方に果物や野菜の摂取頻度がどう関わってくるのかは、これまで十分にわかっていませんでした。今回、中国の高齢者を対象にした長期追跡調査のデータを用いて、この関係を詳しく調べた研究が「フロンティアーズ・イン・ニュートリション」誌に2026年07月に掲載予定です。
研究でわかったこと
この研究では、中国の高齢者を対象とした大規模な追跡調査「中国高齢者健康長寿調査」の2008年、2011年、2014年、2018年のデータが使われました。対象は65歳以上の参加者で、調査開始時点(ベースライン)の残っている歯の本数によって、1〜19本、20〜24本、25〜32本の3つのグループに分けられました。そのうえで、果物と野菜をどのくらいの頻度で食べているかを調べ、その後、歯がどのように失われていったか(1〜19本のグループでは歯が完全になくなる「無歯顎」への移行、20〜24本・25〜32本のグループでは歯の本数が20本未満に減ること)との関連を検討しています。
分析にあたっては、追跡期間中に亡くなる方がいることも考慮し、死亡を「競合するアウトカム」として扱う手法を中心に据えて、対象集団全体を反映するように結果を解釈する方針がとられました。あわせて、果物や野菜の摂取頻度の定義を変えた場合や、追跡データがそろっている人のみを対象にした場合など、複数の角度からの分析も行われています。
その結果、もともとの歯が1〜19本だった人たちのグループでは、野菜をより頻繁に食べている人ほど、その後に無歯顎になるリスクがやや低い傾向が見られました。ただし、死亡という要因を考慮した対象集団全体を反映する分析では、この関連は弱まり、統計的にはっきりとした差とは言えない範囲にとどまりました(ハザード比0.88、95%信頼区間0.73〜0.99ではなく0.73〜1.04)。一方、追跡時点の歯の本数データがそろっている人だけを対象にした分析では、野菜摂取との関連はやや強めに示されました(ハザード比0.83、95%信頼区間0.69〜0.99)。これに対して、果物の摂取頻度については、無歯顎になるリスクとの関連はほとんど見られませんでした(ハザード比0.97、95%信頼区間0.86〜1.09)。なお、もともとの歯が20〜24本、25〜32本と比較的多く残っていたグループでは、こうした関連はより弱く、一貫性も乏しいものでした。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究の興味深い点は、単に「野菜を食べる人は歯を失いにくい」と結論づけるのではなく、死亡という要因を考慮するかどうかや、追跡データがそろっている人だけを見るかどうかによって、関連の強さの見え方が変わりうることを丁寧に示したところにあります。論文の著者らも、追跡データがそろっている人だけを対象にした分析で示された、やや強めの関連については、対象集団全体に当てはめて解釈するには注意が必要であり、野菜摂取が独立して歯を守る効果を持つという証拠として受け止めるべきではない、としています。
また、この研究はあくまで一つの観察研究であり、果物・野菜の摂取頻度と歯の喪失との間に因果関係があることを証明するものではありません。中国の高齢者を対象とした調査結果であることも踏まえ、他の集団に当てはまるかどうかも含めて、今後さらに研究が積み重ねられていく必要があるテーマだと言えるでしょう。
まとめ
今回の研究では、もともとの歯の残り具合が少ない(1〜19本の)中国の高齢者において、野菜をより頻繁に食べることと、その後歯を完全に失うリスクとの間に、弱いながらも逆方向の関連が示唆されました。一方、果物の摂取頻度については、はっきりとした関連は見られませんでした。ただし、この関連は分析方法によって強さが変わり、著者ら自身も慎重な解釈を促しています。果物や野菜と歯の健康との関係を考えるうえで、一つの手がかりとなる研究といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:中国高齢者における歯列状態別にみた果物・野菜摂取頻度と歯の喪失推移との関連:前向きコホート研究(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年07月)