農家の畑の隅に、収穫のあとも使われずに残る葉がある。台湾在来の植物「アカザ(Chenopodium formosanum)」の葉もそのひとつだ。果実や種子が注目される一方で、葉は農業副産物として長らく見向きもされてこなかった。ところが2026年6月に発表された研究が、この「使われない葉」がコンブチャ(発酵飲料)の素材として成立し得ることを示した。入口は地味だが、話の芯は「発酵という工程が成分をどう動かすか」という一点にある。
発酵が進むたびに、成分の地図が書き換わる
研究では、アカザの葉を90℃で20分間抽出したお茶を用意し、酵母・酢酸菌・乳酸菌という3種の微生物を組み合わせてコンブチャ型の発酵を行った。発酵中の菌の動きは、初期の増殖・中盤の活発な遷移・後半の減少という三幕構成をたどった。そして、その変化に寄り添うように、液体の中身も段階ごとに姿を変えていった。
まず液が酸性に傾き、蔗糖(ショ糖)が分解され、有機酸が蓄積した。面白いのはそこで止まらない点だ。研究が報告する最も意外な変化は、発酵が進むにつれてポリフェノール総量とフラボノイド総量が増え、ルチン(フラボノイドの一種)も増加したというものだった。ポリフェノールやフラボノイドは、植物が持つ色素や苦み成分の仲間だ。それが飲み物の中で「発酵を経るほど増える」という結果は、副産物にすぎなかったアカザの葉に新しい評価軸を与える。
さらに、抗酸化活性(DPPHラジカル消去活性)も上昇したと報告されている。発酵という工程が、成分をただ分解するだけでなく、ある種の成分を積み増す方向にも働き得る——この研究はそれを丁寧に描き出している。
「可能性の示唆」にとどまる部分は、正直に読む
研究では、発酵6日目のサンプルをショウジョウバエに与える探索的な試験も行われ、運動能力や抗酸化酵素の活性に変化が見られた。ただし研究チーム自身が認めているように、この試験には「発酵前と糖分条件をそろえた対照群」が含まれていなかった。そのため、観察された変化を発酵そのものの効果だと断言することはできない。動物モデルでの探索的な知見であり、ヒトへの影響を示すものではない。あくまで「可能性を示唆する一歩」として受け取るのが誠実だろう。
研究の結論は慎重かつ明確だ。アカザの葉の浸出液は発酵飲料の原料(基質)として成立し得る——その確認が主旨であって、それ以上の健康効果を主張するものではない。※本記事は研究内容の紹介であり、特定の食品の効果を示すものではありません。
「お茶文化」と「発酵」の掛け合わせが開く扉
コンブチャは近年、日本でも自家製や市販品への関心が高まっている。その基材には、一般に紅茶や緑茶、ほうじ茶といった、私たちが飲み慣れたお茶が使われてきた。今回の研究が問いかけるのは、その素材の幅をどこまで広げられるか、という点だ。
見捨てられてきた葉が、発酵という工程を経てポリフェノールを増やす基質になり得る——この知見は、農業副産物を飲料資源として見直す視点を研究者に与える。環境や食のサステナビリティへの関心が高まる今、この方向の研究が積み重なれば、数年後のコンブチャコーナーには、見慣れない植物の名が並んでいるかもしれない。
この研究の強みは、菌の構成や抽出条件をそろえた管理された設定のもとで、発酵の各段階を追った点にある。裏を返せば、確かめられたのは「原料として成立するか」までで、製品化やヒトでの検証はこれからの課題だ。それでも、「捨てられていた葉」が発酵を経て評価の対象になるまでの道筋を、データで丁寧に示した意義は大きい。次にアカザの葉の発酵がヒトを対象にした試験へ進んだとき、この数字がどう動くのか——また見に来たくなる宿題が、ここに残っている。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)のデータ等をもとに作成しました。参考文献:Fermentation-associated compositional changes in hot-brewed Chenopodium formosanum leaf infusion under defined microbial conditions(フード・サイエンス・アンド・バイオテクノロジー(2026-06-22))