私たちが日々口にするパン、うどん、パスタ。これらの原料となる小麦は、世界中で主食として親しまれている作物です。しかし、小麦を育てる土壌に含まれる「亜鉛」が不足すると、収穫量が減るだけでなく、私たちが食べる穀粒に含まれる亜鉛の量まで少なくなってしまうことをご存じでしょうか。亜鉛は人の体にとっても重要な栄養素であり、主食である小麦を通じて摂取される量は少なくありません。今回紹介する研究は、パキスタンで深刻化している土壌の亜鉛不足を背景に、新しく開発された小麦品種「NWB-50」に対して、どのくらいの量の亜鉛を土壌に施せば生育や収量、そして穀粒中の亜鉛含量が向上するのかを調べたものです。
研究でわかったこと
研究チームは、石灰質の土壌において、乱塊法(実験区をランダムに配置し、条件のばらつきを抑える実験デザイン)を用いた圃場試験を行いました。亜鉛の施用量は、まったく施用しない対照区(0kg/ha)に加え、1.25kg/ha、2.5kg/ha、5.0kg/ha、7.5kg/haの4段階を設定し、それぞれ3回ずつ繰り返して比較しています。
その結果、調べたすべての生育・収量に関わる特性が、亜鉛の施用量によって統計的に有意な影響を受けたと報告されています。具体的には、草丈、分げつ数(茎の数)、一穂あたりの小穂数、穂の長さ、一穂あたりの籽実数、千粒重、穀粒収量、生物学的収量(地上部全体の収量)、収穫指数、そして穀粒や茎葉に含まれる亜鉛の濃度のいずれについても、最も高い値が最大量である7.5kg/ha施用区(論文中の「治療4」)で記録されたとのことです。一方で、これらの値が最も低かったのは、亜鉛をまったく施用しなかった対照区でした。
数値を見ると、7.5kg/ha区では草丈が約99.7cm、1平方メートルあたりの分げつ数が約372本、穀粒収量が1ヘクタールあたり約4387kg、穀粒中の亜鉛濃度が1kgあたり約41.7mgに達したと報告されています。これらの結果から、研究チームは、試験した中では7.5kg/haという施用量が、石灰質土壌で栽培されるNWB-50という小麦品種の生育・収量、そして亜鉛の強化(バイオフォーティフィケーション)を高めるうえで最も効果的な用量であったと結論づけています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、特定の土壌条件(石灰質土壌)と特定の小麦品種(NWB-50)を対象に行われた一つの圃場試験の結果です。ここで示された「7.5kg/haが最適」という結果が、異なる土壌条件や他の小麦品種、あるいは異なる気候条件下でも同じように当てはまるかどうかは、この要旨の情報だけでは判断できません。また、この研究は農作物としての小麦の生育・収量・亜鉛含量を評価したものであり、これを食べた人の健康にどのような影響が生じるかを直接調べたものではない点にも留意が必要です。あくまで一つの研究であり、結論が確定したわけではないことを念頭に置いて読んでいただければと思います。
まとめ
亜鉛不足が課題となっている地域において、新しい小麦品種NWB-50に土壌施用する亜鉛の量を変えて比較したところ、7.5kg/haという量で草丈や収量、穀粒中の亜鉛濃度などが最も高くなったことが、この研究では示されました。今後、こうした知見が異なる条件下でも確認されていくことで、亜鉛不足に悩む地域での小麦栽培や栄養改善に向けた研究がさらに進んでいくことが期待されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:新規小麦品種NWB-50の亜鉛要求量の評価(ジャーナル・オブ・アプライド・リサーチ・イン・プラント・サイエンシズ・2026年07月)