よく眠れないという悩みは、多くの人にとって身近なものです。睡眠は単に「何時間眠ったか」だけでなく、寝つきの良さ、途中で目が覚めないか、ぐっすり眠れた感覚があるかなど、いくつもの側面を持つ複雑な健康領域だと考えられています。そして、睡眠には生活習慣や心理的な状態、食事のとり方などさまざまな要因が関わっているとされます。しかし、地中海沿岸地域で知られる「地中海式ライフスタイル」という枠組みの中で、不眠症の重さと複数の睡眠に関する指標を、多くの国にまたがって同時に調べた研究はこれまで限られていました。今回紹介する研究は、この点に着目し、地中海沿岸およびその周辺国の成人を対象に、不眠症の重さや睡眠の特徴と、地中海式の生活習慣・心理社会的な健康との関連を調べたものです。

研究でわかったこと

この研究は「MEDIET4ALL」という国際調査の一環として行われ、10カ国の成人4010人(女性59.5%)から、多言語対応のオンライン調査(eサーベイ)を通じてデータが集められました。主な評価項目は「不眠症重症度指数(ISI)」と呼ばれる指標で不眠症の重さを測定し、そのほかに睡眠時間、寝つくまでの時間(睡眠潜時)、睡眠効率、主観的な睡眠の質といった睡眠の特徴も調べられました。これらと、社会人口統計学的な要因、健康状態、地中海式の食事パターンへの遵守度、身体活動などの動きに関する要因、心理的要因、社会的な要因との関連が、回帰分析という統計手法を用いて検討されています。加えて、生活満足度を介した間接的な関連についても、探索的な統計分析が行われました。

その結果、調べられた睡眠に関する指標の中で、不眠症重症度がもっとも説明力の高いモデルとなりました(調整済み決定係数はおよそ0.29)。具体的には、不眠症の重さが増すことは、女性であること、BMI(体格指数)が高いこと、そしてうつ・不安・ストレスの度合いが強いこと(標準化係数はおよそ0.15〜0.17)と関連が見られました。反対に、不眠症の重さが軽いことは、年齢が高いこと、自覚的な健康状態が良好であること、生活満足度が高いこと、そして地中海式の食事パターンへの遵守度が高いこと(標準化係数はおよそマイナス0.04〜マイナス0.11)と関連していたと報告されています。睡眠時間や睡眠効率といったほかの睡眠指標についてのモデルは、説明できる割合がより控えめで、探索的な結果として位置づけられるべきだとされています。全体を通じて、心理的な健康や心理的な苦痛(うつ・不安・ストレスなど)がもっとも一貫して睡眠の指標と関連していた一方、地中海式食事の各側面や社会参加との関連は、指標によって異なり、より小さいものだったとされています。また、探索的な分析では、地中海式食事の各側面や社会参加が、生活満足度を介して、睡眠の質や不眠症重症度と統計的に有意な、ただし小さな間接的関連を示したことも報告されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、多国籍の大規模なサンプルを用いて、睡眠と心理的な健康・苦痛、地中海式ライフスタイルに関連する行動、地域的な文脈との間に見られる、これまで知られてきた関連を確認し、文脈づけるものだと位置づけられています。ただし、これはアンケート調査による横断的な関連を検討した一つの研究であり、心理的な健康や地中海式食事への遵守が睡眠を良くする、あるいは不眠を防ぐ、といった因果関係を証明するものではない点には注意が必要です。特に睡眠時間や睡眠効率などの副次的な指標に関するモデルは説明力が控えめで、あくまで探索的な結果として著者らも位置づけています。また、生活満足度を介した間接的な関連についても、統計的に有意ではあるものの小さなものであったと報告されており、過大に解釈しないことが望まれます。

まとめ

今回紹介した国際調査からは、不眠症の重さが、性別やBMI、心理的な苦痛(うつ・不安・ストレス)ともっとも一貫して関連しており、一方で年齢、自覚的健康状態、生活満足度、そして地中海式食事パターンへの遵守度とは、比較的弱いながらも負の関連が見られたことが示されています。心理的な健康と苦痛が睡眠に関する指標全体を通じてもっとも安定した関連要因として浮かび上がった一方、食事や社会参加に関する要因は、指標ごとに異なる、より限定的な関連を示したとされています。これらはあくまで一つの調査研究から得られた関連性であり、今後さらなる研究による検証が待たれるところです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:地中海式ライフスタイルの遵守と心理社会的健康に関連する睡眠特性および不眠症重症度:MEDIET4ALL国際調査からの知見(ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・インベスティゲーション・イン・ヘルス・サイコロジー・アンド・エデュケーション・2026年07月)