「ピログルタミン酸」は、しょうゆなどの発酵・醸造の過程で、グルタミン酸(うま味の源となるアミノ酸の一種)から自然につくられる成分です。意図して摂るというより、発酵食品を食べることで知らず知らずのうちに口にしているもので、日本人の食事摂取基準にも定量的な目標値は設けられていません。体内でどんなはたらきをするかについては現時点では明確にされておらず、今回は「この成分が、どんな食品にどれだけ含まれているか」という視点でデータを読み解いていきます。
日本食品標準成分表(八訂)でピログルタミン酸の値が収載されている食品は、現在のところわずか5種類。そのすべてが発酵・醸造食品であることが、まず目を引きます。長い熟成の過程でグルタミン酸から少しずつ変化・蓄積していく成分で、時間と微生物の仕事が積み重なって初めて生まれるものなのです。
上位を占める3つの魚醤油――それぞれの個性
成分表の1位から3位は、いずれも魚醤油です。魚介を塩漬けにして長期間発酵・熟成させた調味料で、アジア各地に古くから伝わる製法を日本各地でも独自に受け継いできました。
いかなごしょうゆ(0.4g/100g)
首位はいかなごしょうゆで(成分データ)、前出の通り5食品中で最も高い値です。いかなごは瀬戸内海以北から北海道沿岸に生息する小魚で、春が旬の時季に漁獲されます。この小魚を原料に醸造されたしょうゆで、乳酸(0.3g)やコハク酸(0.1g)といった有機酸も豊富です。小さじ1杯(約6g)あたりのピログルタミン酸は約0.024gとなります。なお、食塩相当量は100gあたり21.2gと非常に高いため、少量を風味づけに活かす使い方が基本です。塩分管理が必要な方は摂取量にご注意ください。
いしる(いしり)(0.3g/100g)
2位のいしる(いしり)は(成分データ)、能登地方に伝わる魚醤油です。いかなごしょうゆとの差は100gあたり0.1gで、いずれも魚醤油として高い部類に入ります。食塩相当量が100gあたり21.9gと非常に高いため、お使いの際は少量を風味づけに活かすのが基本です。大さじ1杯(約18g)で食塩相当量は約4gとなりますので、他の調味料と組み合わせながら量を調整するのがよいでしょう。高血圧や腎疾患のある方は特にご注意ください。
しょっつる(0.2g/100g)
3位のしょっつるは(成分データ)、秋田県に古くから伝わる魚醤油です。食塩相当量は100gあたり24.3gと3種の中で最も高く、塩気の強さがひときわ際立ちます。食塩相当量が高い調味料であるため、いずれも少量使いが鉄則です。ピログルタミン酸の量はいかなごしょうゆの半分(0.2g)ですが、発酵由来の成分を含む点は共通しています。
この3種に共通するのは、脂質がほぼゼロという点です。素材の魚介は脂を含みますが、長い発酵・熟成の過程を経た液体には脂質がほとんど残りません。
漬物2種――「第4位タイ」に並ぶ、まったく異なる個性
4位には、性格の異なる2種の漬物が同じ0.1gで並んでいます。
しろうり奈良漬(0.1g/100g)
しろうり(白瓜)の奈良漬(成分データ)は、しろうりを酒粕に何度も漬け直して仕上げる漬物です。その製法の証とも言えるのが、100gあたりアルコール5.8gという数値。酒粕由来のアルコール分が残っており、独特の風味と長期保存を支えています。薄切り1切れを目安(約20g)とした場合、アルコール量は約1.2gとなります。妊婦・授乳婦の方や、肝疾患などアルコールを避けるべき疾患のある方は摂取をお控えください。また、モリブデンを多く含み(81µg/100g)、100g摂取した場合は女性30〜49歳の推奨量25µg/日の324%に相当しますが、薄切り1切れ(約20g)では約16µg(推奨量の約64%)となります。なお、この割合は推奨量に対するもので、耐容上限量(成人女性500µg/日)の基準ではないため、通常の食べ方の範囲では過剰摂取を心配する必要はないでしょう。
たかな漬(0.1g/100g)
たかな漬は(成分データ)、九州を中心に親しまれる高菜の漬物です。乳酸(0.2g)を含み、乳酸発酵による酸味が特徴的です。ビタミンK(300µg/100g)も多く含まれており、100g摂取した場合は女性30〜49歳の目安量150µg/日の200%に相当しますが、1人分約30gでは90µg(目安量の約60%)ほどです。ビタミンKには耐容上限量が設定されていないため過剰摂取を過度に心配する必要はありませんが、ワルファリンなど特定の薬を服用中の方は医師に相談することをお勧めします。
「摂ろうとして摂るもの」ではない
今回見てきた5食品は、魚醤油3種と漬物2種——どれも、人が手をかけて発酵・醸造を重ねた末に生まれる食品です。ピログルタミン酸は栄養目標として「摂るべき量」が定められているわけではなく、発酵食品に自然に蓄積する成分です。いかなごしょうゆやしょっつるを料理の隠し味に使ったり、たかな漬や奈良漬を食卓の一品として添えたりする習慣のなかで、微生物と時間が積み上げた成分が、日常の食卓にそっと溶け込んでいます。ただし魚醤油はいずれも食塩相当量が高いため、風味づけ程度の少量使いが基本です。
(参考値)本記事の栄養素データは日本食品標準成分表(八訂)に基づきます。食事摂取基準は「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)を参照しています。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。