世界には、その土地の気候や生活様式に根ざして受け継がれてきた発酵食品が数多くあります。乳を発酵させる技術もそのひとつで、地域ごとに独自の作り方や味わいが育まれてきました。今回紹介する研究は、カメルーン極北州の牧畜コミュニティで伝統的に作られてきた「ペンディダム」という脱脂発酵乳を取り上げ、その製法と品質を科学的に調べたものです。ペンディダムは地域の食文化に深く根付いた存在とされていますが、これまでその品質や安全性はきちんと調べられてこなかったといいます。

研究でわかったこと

研究チームは、カメルーン極北州の生産者を対象にアンケート調査やグループディスカッションを行うとともに、実際にペンディダムのサンプルを採取し、標準的な手法で分析しました。その結果、ペンディダムづくりは牧畜コミュニティに根ざした、女性が中心となって担う活動であることが分かりました。作り手の多くは既婚で、正式な教育を受けていない一方、伝統的に受け継がれてきた知識に基づく豊富な経験を持っているとされています。製法は標準化された工程ではなく、職人的な手作業と自然に起こる発酵(自然発酵)に頼るもので、こうした作り方は汚染のリスクをはらむ可能性があると指摘されています。

成分分析では、ペンディダムはpH3.35〜3.66という、望ましいとされる酸性度(pH4未満)を示し、タンパク質(7.84〜9.13 g/L)、遊離アミノ酸(5.61〜7.77 g/L)、糖類(7.68〜8.87 g/L)を含んでいることが確認されました。栄養面ではポテンシャルの高さがうかがえる結果です。

一方で、微生物学的な品質については望ましくない結果が示されました。カビ(5.48〜5.78 Log10 CFU/mL)、芽胞形成菌(4.44〜4.90 Log10 CFU/mL)、ブドウ球菌(2.79〜2.99 Log10 CFU/mL)が、安全基準とされる値を上回る水準で検出されたとのことです。さらに、亜硫酸還元性クロストリジウムや大腸菌群も検出されたと報告されています。こうした結果は、衛生管理の面で課題があることを示唆しています。

また、官能評価(味や風味などを人が評価する検査)では、消費者からの受容性は高いという結果が得られています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、ペンディダムという特定の地域の伝統食品を対象にした一つの調査研究であり、結果はカメルーン極北州における生産実態やサンプルに基づくものです。栄養面での良好な特性と、衛生面での課題という両側面が同時に示されている点が特徴で、著者らは、衛生に関する正式なトレーニングや製造工程の最適化など、的を絞った対策の必要性を指摘しています。特定の食品の効能を断定するものではなく、あくまで現状の製法と品質を記録・評価した調査研究として捉えるのが適切です。

まとめ

ペンディダムは、酸味や栄養成分の面では望ましい特性を持つ一方、カビや細菌類が基準を超えて検出されるなど、衛生面では改善の余地があることが、今回の調査で明らかになりました。消費者からの評価は高いとされる伝統食品だけに、今後、衛生管理や製造工程の見直しが進めば、より安全な形でこの食文化が守られていくことが期待されます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ペンディダムの加工と特性評価:カメルーン極北州で作られる伝統的な脱脂発酵乳(インターナショナル・ジャーナル・オブ・フード・サイエンス・2026年01月)