この研究は、アメリカの研究機関の研究論文です。

掲載誌:World Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

論文が提起する問い

この論文は、新しいデータを集めた実験や調査ではなく、著者が一つの仮説を提案する意見論文です。著者は、米国の学校の食をめぐる習慣が、意図しないまま子どもたちに「不健康な食べ物=楽しい」という直感を育てているかもしれない、と論じています。ここでいう直感とは、エネルギーが高く栄養の乏しい食べ物の方が、健康的な食べ物よりもお祝いやごほうび、楽しさと結びついているという、経験から身についた期待のことです。

背景として著者は、米国の学校が貧困による空腹に苦しむ多くの子どもにとって重要な役割を担っていることを挙げています。論文が引用する報告によれば、平均的な登校日に約3000万人の子どもが学校給食を受け取っています。給食の栄養面の質は「健康で飢餓のない子ども法」の施行後に大きく向上した一方で、米国の子どもや青少年の3分の1以上が過体重または肥満の状態にあるとされています。そのうえで著者は、学校は提供する食事の栄養だけでなく、子どもが食べ物について抱く考え方や期待、感情的な結びつきにも影響しうると指摘しています。

「感情への期待」という考え方

この仮説の土台として、著者は他の研究者による論考を紹介しています。それによると、脂肪や糖分、塩分の多い食べ物を食べ過ぎてしまう理由は、「食べれば良い気分になれる」という期待によって説明できる可能性があります。飲酒と同じように、食べたときに得られると予想するポジティブな感情が、食べる動機になるという考え方です。食品の広告は、特定の食べ物と楽しい感情との結びつきをさらに強めるとも述べられています。

著者は、既存の「不健康な食べ物ほどおいしい」という一般の思い込みになぞらえて、「不健康な食べ物=楽しい」という直感を、こうした感情への期待の一つの形として位置づけています。不健康な食べ物が、お祝いやごほうび、人とのつながりといった心地よい感情と結びつくというものです。ただし著者は、この直感そのものはまだ直接研究されていないことを明記しています。

教室のお祝いと健康への影響の可能性

著者が注目するのは、教室でのお祝いやごほうびの場面です。学校給食は連邦政府の栄養基準で規制されていますが、お祝いやごほうびなどで食べ物をどう使うかは、学区や学校、さらには個々の教師が決めることが多いと著者は説明しています。食物アレルギーへの対応や食品衛生の要件、家庭からの持ち込み制限などを考えると、市販の包装食品が手軽な選択肢になりやすいといいます。

著者は、この直感が教師によって意図的に教えられるものではなく、不健康な食べ物が組み込まれたお祝いを繰り返し経験するなかで、偶然に形成されるかもしれないと述べています。また、家庭でのお祝い、宗教団体やスポーツチームなどの集まり、食品広告、バレンタインデーやハロウィンといった文化的行事も同じような結びつきを生みうるとし、それぞれの影響の大きさは現時点では分かっていないとしています。

健康への影響について、著者はあくまで仮説として論じています。もしこの直感が感情への期待を通じて食行動に影響しているなら、子ども時代に身についた結びつきが大人になっても続き、祝日や集まりでの食べ物選びに影響するかもしれません。さらに、ストレスや不安などのネガティブな感情に反応して食べる量が増える「感情的摂食」に関わり、苦しいときの対処手段になる可能性も挙げています。著者は、超加工食品の摂取が多いことと心身のさまざまな健康上の問題との関連を報告した先行研究を引用し、もしこのつながりが確かめられれば健康面での意味は大きいと述べています。

著者が求める研究と学校での工夫

著者は、この直感を信頼できる方法で測定できるか、どの程度強く表れるか、子どもの態度や食べ物の選択、食事内容、長期的な健康と関連しているかを調べる研究が必要だと呼びかけています。あわせて、学校が取り入れられる工夫として、お祝いに食べ物を使う場合はより健康的な包装スナックを選ぶこと、あるいは食べ物以外の活動を中心にしたお祝いにすることを提案しています。

その例として著者は、ミネソタ州のセントポール公立学校区が「食べ物ではなく楽しさに焦点を」と呼びかけていることや、教室のパーティーで甘い食べ物や飲み物を控えるよう定めた学校では、実際にそれらが出される割合が低かったという先行研究を紹介しています。この論文は、学校給食の栄養だけでなく、お祝いの場で何気なく繰り返される食の習慣が、子どもの食べ物に対する感情の結びつきを形づくっているかもしれないという視点を投げかけています。

著者:Oskar Pineño(Hofstra University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Oskar Pineño. School food culture may promote an "unhealthy = fun” intuition. World Nutrition 2026-09-30. DOI: 10.26596/wn.2026173178-181. 原著ライセンス:CC BY.