アメリカザリガニ(Procambarus clarkii)には、殻がやわらかく青みがかった「青色軟殻型」と、殻が硬く赤い「赤色硬殻型」がいることが知られています。市場ではこの二つのタイプで取引価格が大きく異なるとされますが、その背景にどのような生物学的な違いがあるのかは、まだ十分に整理されていませんでした。今回、フィッシーズ誌に2026年07月に掲載予定の論文では、この殻の色の違いが、筋肉の質や殻の色素、さらには体内の遺伝子発現とどう関係しているのかを調べています。

研究でわかったこと

研究チームは、体の大きさがそろった(9〜10cm)健康なアメリカザリガニ120匹を用意し、殻の色(青色軟殻型・赤色硬殻型)と性別で均等に分けたうえで、筋肉の品質、殻の色素の量、そして脂肪合成に関わるとされる遺伝子「DGAT2」のmRNA発現量を比較しました。

まず筋肉の質については、赤色硬殻型のほうが青色軟殻型よりも筋肉の硬さが有意に高いという結果が報告されています。一方で、筋肉の弾力性についてはグループ間で明確な差は見られなかったとされています。

栄養成分に関しては、殻の色と性別の組み合わせ(相互作用)が粗脂肪量や灰分(ミネラル分の指標)に影響することが示されました。具体的には、赤色硬殻型のほうが粗脂肪量が多く、灰分についてはオスの赤色硬殻型がオスの青色軟殻型よりも有意に高かったと報告されています。なお、水分量とタンパク質量については、殻の色と性別の組み合わせによる明確な差は見られなかったとされています。

殻に含まれる色素成分(アスタキサンチン、ルテイン、β-カロテン)についても、性別と殻の色の組み合わせが影響することが示されました。アスタキサンチンはメスの青色軟殻型で最も少なく、ルテインはオスの赤色硬殻型で最も多かったとされる一方、β-カロテンについては明確な差は見られなかったとのことです。

さらに、脂肪合成に関わるとされるDGAT2という遺伝子のmRNA発現量を調べたところ、どのグループでも肝臓に相当する組織(肝膵臓など)で最も高い発現が見られたと報告されています。また生殖腺では、青色軟殻型では卵巣で、赤色硬殻型では精巣で発現が高いという傾向が示されました。内膜や筋肉、腸においても、殻の色と性別の組み合わせによって発現パターンが異なることが確認されたとされています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この論文は、殻の色という見た目の違いが、筋肉の硬さや脂肪・ミネラル含量、色素の種類と量、そして遺伝子発現という複数の生理的な特徴と結びついている可能性を示すものです。ただし、これは一つの研究で得られた結果であり、殻の色そのものが原因でこれらの違いが生じるのか、あるいは別の要因(例えば飼育環境や成長段階など)が背景にあるのかについては、要旨の範囲では明らかにされていません。今回の結果をもって、味や品質の優劣について断定的な結論が確定したわけではない点には留意が必要です。

まとめ

今回の研究では、アメリカザリガニの青色軟殻型と赤色硬殻型を比較し、筋肉の硬さ、脂肪やミネラルの含量、殻の色素成分、そして脂肪合成に関わるとされる遺伝子の発現パターンに、殻の色と性別が組み合わさって影響することが示唆されました。市場で評価が分かれるこの生き物の「見た目の違い」が、体の中でどのような生理的な変化と結びついているのかを考えるうえで、一つの手がかりを与える研究といえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:アメリカザリガニ(Procambarus clarkii)における青色軟殻型と赤色硬殻型の包括的解析:筋肉品質、甲殻色素沈着、組織特異的DGAT2 mRNA発現(フィッシーズ・2026年07月)