アフリカ大陸東方のインド洋に浮かぶ島国モーリシャスは、西インド洋の中でも有数の広さを誇る排他的経済水域を持ち、その海には食用にできる海藻を含む豊かな海洋資源が眠っているとされます。しかし、こうした資源はこれまで十分に調査されてこなかったといいます。今回紹介する研究は、モーリシャスの魚類養殖施設に自然に生育している海藻に着目し、その抗酸化成分を調べたものです。

研究の舞台となったのは、Pointe-aux-Feuillesにある浮桁式(フローティングケージ)の魚類養殖場です。こうしたラグーン(礁湖)内の養殖施設は、魚の排せつ物などにより周辺の海水がある程度栄養豊かになることがあり、その結果、海藻(大型藻類)がよく育つ環境になりうると考えられています。このような特性は、魚と海藻など複数の栄養段階の生物を一緒に育てる「複合多栄養段階養殖(IMTA)」という持続可能な養殖方式を導入するうえで、有望な土台になりうるとされています。

研究でわかったこと

研究チームは、この養殖施設の構造物に生育していた7種の食用海藻を対象に、公的に認められた分析法(AOAC法)と分光光度法という手法を用いて、ビタミンC(アスコルビン酸)、総フェノール量、フラボノイド、β-カロテン、クロロフィルa、アントシアニンといった抗酸化に関わる成分を種ごとに測定しました。これらはいずれも、体内で発生する活性酸素などから細胞を守る働きに関わるとされる植物由来の成分群です。

その結果、種によって成分含有量に統計的に見て意味のある差(有意差)があることが示されました。具体的には、緑藻の一種であるUlva torta(管状型)は、生重量あたり640±25.6mg/kgという高いビタミンC含有量を示し、栄養面での可能性が示唆されたといいます。また、Padina santae-crucis(系統2)という種は、フェノール含有量(22.25±5.74mg/kg)とフラボノイド含有量(398.8±14.6mg/kg)がいずれも今回調べた中で最も高い値を示しました。

紅藻に分類されるDasya corymbiferaとGracilaria rangiferinaは、β-カロテン(28.18±2.22mg/kg)とアントシアニン(0.301±0.003mg/kg)が豊富であることが確認され、さらにDasya corymbiferaはクロロフィルaの含有量が今回の調査対象中で最も高い値(24.00±0.05mg/kg)を示したと報告されています。

これらの結果から、研究チームはモーリシャス在来の海藻が優れた栄養的・機能的価値を持つ可能性があり、持続可能な食料システムや、健康機能を意識した食品素材(ニュートラシューティカル)の開発、いわゆる「ブルーバイオエコノミー」と呼ばれる海洋資源を活用した経済活動への応用につながりうると述べています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、特定の時点・場所で採取された海藻の成分を分析したものであり、季節による変動や、実際にヒトの健康にどのような影響があるかについては、今後さらに調べる必要があると研究者自身が述べています。つまり、今回の結果だけで健康効果が確かめられたわけではなく、あくまで一つの研究として、今後の研究の土台となる基礎的なデータが得られた段階と理解するのが適切です。

また、今回の測定値は特定の養殖施設で採取された海藻に基づくものであり、成分量は生育環境や季節によって変わりうる性質のものです。特定の食品や成分が病気の予防・治療に直接結びつくと述べているわけではない点にも注意が必要です。

まとめ

モーリシャスの魚類養殖施設に育つ7種の食用海藻を分析したこの研究では、種によってビタミンCやフェノール類、フラボノイド、β-カロテン、クロロフィルa、アントシアニンといった抗酸化関連成分の含有量に違いがあることが示されました。養殖施設という人の手が加わった環境が、栄養価の高い海藻の供給源になりうる可能性や、魚と海藻を組み合わせた持続可能な養殖の仕組み(IMTA)への応用可能性が示唆される内容といえます。今後は季節変動や健康への影響についての研究が期待されています。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ラグーン養殖構造物が支える抗酸化物質豊富な可食性海藻:モーリシャスにおける複合多栄養段階養殖(IMTA)への可能性(ディスカバー・オーシャンズ・2026年07月)