著者の所属・活動拠点の国は、スペイン、アメリカです。

掲載誌:Food research international (Ottawa, Ont.)

ライセンス: 論文に記載なし

毎日口にする食べ物が、体の中の遺伝子の働きに影響を与えるとしたら、どう感じますか?ポリフェノールを豊富に含む食品が、私たちの遺伝子発現パターンを変化させる可能性があるという研究が、食品研究国際誌(2026年4月)に報告されました。今回はその内容をわかりやすくひも解いていきます。

研究でわかってきたこと

この研究は、閉経後の女性を対象に、ダークチョコレート・緑茶・ミックスフルーツジュース(ザクロ・ベリー類・オレンジ)を2か月間毎日摂取してもらい、血液中の遺伝子発現がどのように変化するかを調べたものです。

閉経後はエストロゲンという女性ホルモンが低下するため、代謝や炎症に関わる体の仕組みが大きく変化します。研究では、ポリフェノール豊富な食品を継続的に摂取することで、タンパク質をつくる遺伝子(mRNA)だけでなく、マイクロRNA(miRNA)や長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)など、複数の種類の遺伝子発現に変化が生じたことが報告されています。これらの遺伝子は、内分泌機能・炎症・代謝・細胞シグナル伝達といった重要な生体プロセスに関わるとされています。

さらに注目されるのは、腸内細菌によって生み出される代謝物(バレロラクトン類・ウロリチン類)や、体内で変換されたポリフェノール代謝物(カカオのフラバン-3オールやオレンジのフラバノンのグルクロン酸抱合体)が、遺伝子の働きに関わるタンパク質と結びつきやすい可能性がシミュレーション解析で示唆されています。つまり、食品に含まれるポリフェノールが腸内で代謝されることで、体の奥深くで何らかの役割を担っている可能性が示されているといえます。

あくまでも一つの研究結果であり、特定の食品が疾患を治したり予防したりすることを示すものではありません。しかし、食べ物と遺伝子の関係という『ニュートリゲノミクス(栄養ゲノム学)』の観点から、日常の食生活がもつ意味の奥深さをあらためて考えさせられる報告といえるでしょう。

注目の食品と実測データ

今回の研究で使われた食品は、いずれも日常的に手に入りやすいものばかりです。ただし、当システムのデータベースに該当食品のデータが現時点では格納されていないため、公的機関のデータを参照します。

  • 緑茶:農林水産省の資料によると、緑茶(浸出液)には茶カテキンをはじめとするポリフェノールが豊富に含まれるとされています。(出典:農林水産省「緑茶の機能性成分について」)
  • ダークチョコレート:カカオ由来のフラバン-3オール類を含み、カカオ含有率が高いほどポリフェノール量も多い傾向があるとされています。
  • ベリー類・ザクロ・オレンジ:アントシアニンやフラバノン、エラグ酸など多様なポリフェノール類を含む果物です。厚生労働省の健康情報サイトでも、色の濃い野菜・果物に含まれる植物性化合物への関心が高まっていることが紹介されています。(出典:厚生労働省「e-ヘルスネット」)

複数の種類のポリフェノールを同時に摂取したという点が、今回の研究の特徴の一つです。単一の成分ではなく、異なる食品を組み合わせることで、腸内での代謝や体内への影響が変わってくる可能性も示唆されており、食品の『組み合わせ』という視点が今後さらに注目されそうです。

日々の食事に取り入れるヒント

研究の結果を踏まえつつ、無理なく日常の食事にポリフェノール豊富な食品を取り入れるヒントをご紹介します。

  • 緑茶を習慣の一杯に:毎朝や食事のお供として緑茶を選ぶだけで、手軽にポリフェノールを摂取できます。砂糖不使用のものを選ぶとなお良いでしょう。
  • おやつにカカオ高めのチョコレートを少量:カカオ70%以上のダークチョコレートを1〜2かけ(目安量)楽しむのもひとつの方法です。食べすぎには注意しながら取り入れましょう。
  • 果物を彩りよく:ベリー類(ブルーベリー・いちごなど)、オレンジ、ザクロなど、色の異なる果物を組み合わせて食べることで、多様なポリフェノールを摂取できる可能性があります。ヨーグルトにのせるなど、食べやすいアレンジもおすすめです。
  • 継続が大切:今回の研究は2か月間の継続摂取を条件としていました。特定の食品を短期間だけ大量に摂るよりも、毎日の食事の中でバランスよく取り入れ続けることが大切だと考えられます。

まとめ

緑茶・ダークチョコレート・ベリーやオレンジなどのフルーツが、遺伝子の働きに影響を与える可能性が研究で示唆されています。これは特定の食品を『薬』のように摂ることを勧めるものではなく、日々の食事の積み重ねが体の奥深くに働きかけているかもしれないという、食と健康の関係の豊かさを教えてくれるものです。最新の栄養科学の知見を参考にしながら、色とりどりの食品をバランスよく楽しむ食生活を続けていきましょう。

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)のデータ等をもとに作成しました。出典(原著論文):Chronic consumption of (poly)phenol-rich foods exerts multigenomic modification of genes linked to cardiometabolic health in postmenopausal women(食品研究国際誌(2026-04-16))

著者:Lorena Sánchez-Martínez(Department of Food Technology, Food Science and Nutrition, University of Murcia. Campus Mare Nostrum, Campus de Espinardo, 30100 Murcia, Spain; Biomedical Research Institute of Murcia Pascual Parrilla-IMIB, 30120 Murcia, Spain)、Dragan Milenković(Plants for Human Health Institute, Food Bioprocessing and Nutrition Sciences Department, North Carolina State University, Kannapolis, NC, United States)、Mª. Jesús Periago(Department of Food Technology, Food Science and Nutrition, University of Murcia. Campus Mare Nostrum, Campus de Espinardo, 30100 Murcia, Spain; Biomedical Research Institute of Murcia Pascual Parrilla-IMIB, 30120 Murcia, Spain)、Rocío González-Barrio(Department of Food Technology, Food Science and Nutrition, University of Murcia. Campus Mare Nostrum, Campus de Espinardo, 30100 Murcia, Spain; Biomedical Research Institute of Murcia Pascual Parrilla-IMIB, 30120 Murcia, Spain; Department of Nutrition, University of California, Davis, CA, United States. Electronic address: [email protected])