私たちの腸には無数の細菌が棲んでおり、これらは「腸内マイクロバイオーム」と呼ばれ、食事や生活習慣の変化に応じて変わることが知られています。近年、農村部から都市部への移住のような大きな生活の変化(都市化)が、腸内細菌にどのような影響を与えるのかが注目されていますが、こうした反応が地域や文化が異なってもある程度共通しているのか、それとも土地ごとに大きく異なるのかは、これまで十分にわかっていませんでした。今回、ガット・マイクローブス誌に2026年07月に掲載予定の研究では、南アジアという一つの地域の中でも、コミュニティによって都市化への腸内細菌の反応が大きく異なりうるかどうかが調べられました。
南アジア10コミュニティ、575人の腸内細菌を比較
研究チームは「SAMBAR(South Asian MicroBiome ARray)」と名付けた大規模な調査を実施し、地理的にも社会・文化的にも多様な南アジアの10のコミュニティから、合計575人の成人を対象に、16S rRNA解析という手法を用いて腸内細菌の構成を調べました。この研究の特徴は、それぞれのコミュニティについて、先祖代々暮らしてきた農村部と、都市部の両方でサンプルを集めた点にあります。これにより、「住んでいる地理的な場所の違い」と「都市的な生活様式への移行」という二つの要因を、区別して比較できるように設計されています。
その結果、世界の他地域のコホート(調査対象集団)と比べて、南アジアの腸内細菌の構成は独自のまとまりを示しており、生活様式そのものよりも、地理的な条件やどのコミュニティに属するかとの関連の方が強いことが示されました。さらに、都市化に伴う生活様式の変化への腸内細菌の反応は、多くの場合コミュニティごとに異なるパターンを示すことが報告されています。例えば一部のコミュニティでは、小麦や乳製品の分解に関連する微生物の機能(モジュール)を新たに獲得している様子が見られ、これは乳糖不耐性(乳糖を分解する酵素であるラクターゼの働きが弱いこと)を遺伝的な変化によらずに補う、一種の適応として働いている可能性があるとされています。
一方で、都市化を示す指標と、疾患との関連が指摘されている細菌の増加との間にも、統計的に意味のある関連が見つかりました。特に「メガモナス(Megamonas)」という細菌は、血糖値の上昇や腸内細菌の多様性の低下と相関しており、また今回のSAMBARの対象集団では、世界の他地域と比べてこの菌が多く見られることが示されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究が示しているのは、都市化に対する腸内細菌の反応が、南アジアという一つの地域の中でも、コミュニティの文化や地理的背景によって一様ではないという点です。研究チームは、都市化が健康に与える影響を評価するためには、地域や集団を一括りにせず、コミュニティごとの実情に即した検討が必要だとしています。
なお、ここで紹介したメガモナスと血糖値・多様性低下との関連は、あくまで相関関係が報告されたものであり、この研究の要旨からは、都市化や特定の菌の増加が病気を引き起こす、あるいは予防するといった因果関係までは述べられていません。本研究は一つの論文であり、これによってすべてが結論づけられたわけではない点にも留意が必要です。
まとめ
今回の研究は、南アジアの多様なコミュニティを対象に、農村部と都市部の腸内細菌を比較することで、都市化への腸内細菌の反応が地域や文化によって大きく異なりうることを示唆するものです。腸内細菌と生活習慣の関係を考えるうえで、「都市化」や「地域」を大きく一括りにするのではなく、それぞれの土地や暮らし方に根ざした視点が重要であることを示す一例と言えそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:南アジアにおける都市化の異なる軌跡がヒト腸内マイクロバイオームを形作る(ガット・マイクローブス・2026年07月)