「運動をよくする人は、食生活も整っている」――そんな印象を持ったことはないだろうか。実際、多くの健康行動は互いに絡み合っていると考えられており、近年では運動と栄養の両方を同時に働きかける「運動・栄養シナジー」という考え方が、生活習慣病の予防戦略の中に取り入れられつつあるという。今回紹介する研究は、この身体活動と野菜・果物摂取という2つの健康行動の関係に着目し、さらにその間に「自尊心」や「抑うつ症状」といった心理的な要因がどのように関わっているのかを調べたものだ。
背景には、中国の大学生の生活習慣に関する指摘がある。既存の研究によれば、身体活動と野菜・果物摂取の推奨基準を満たしている中国人大学生は4割に満たないとされる。こうした状況を踏まえ、研究チームは身体活動と野菜・果物摂取の関連を検討するとともに、自尊心と抑うつ症状がその関係にどう介在しているのかを明らかにしようとした。
研究でわかったこと
この研究では、湖南省、陝西省、雲南省、四川省、山東省の大学生3,989人(平均年齢19.04歳)を対象にアンケート調査が行われた。調査では、基本的な属性に加え、身体活動量、自尊心、抑うつ症状、野菜・果物摂取の状況が尋ねられ、統計解析(SPSSのPROCESSマクロ)を用いて、身体活動から野菜・果物摂取に至る心理的な経路(媒介モデル)が検証された。
まず単純な相関関係として、身体活動が多い人ほど自尊心が高く(相関係数r=.081)、野菜・果物摂取量も多い(r=.230)一方で、抑うつ症状は少ない(r=-.058)という関連がみられた。また自尊心が高いほど野菜・果物摂取量は多く(r=.135)、抑うつ症状は少ない(r=-.198)こと、そして野菜・果物摂取量が多いほど抑うつ症状が少ない(r=-.145)ことも示された。
さらに詳しい分析では、身体活動は自尊心の高さ、抑うつ症状の少なさと関連し、自尊心の高さも抑うつ症状の少なさと関連することが示された。そのうえで、身体活動と自尊心はいずれも野菜・果物摂取量の多さと関連し、逆に抑うつ症状は野菜・果物摂取量の少なさと関連していた(いずれもp<.05)。
身体活動と野菜・果物摂取の間には直接的な関連(β=0.238)が見られたことに加えて、「身体活動→自尊心→野菜・果物摂取」という経路(β=0.008)、「身体活動→抑うつ症状→野菜・果物摂取」という経路(β=0.004)、さらに「身体活動→自尊心→抑うつ症状→野菜・果物摂取」という一連の経路(β=0.002)についても、統計的に意味のある関連があることが示された。つまり、身体活動と野菜・果物摂取の関連の一部には、自尊心や抑うつ症状といった心理的な状態が関わっている可能性が示唆されている。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究はある一時点での調査データに基づく横断的研究であるため、論文の著者ら自身も述べている通り、得られた関連は因果関係ではなく、あくまで統計的な関連として解釈されるべきものである。つまり「身体活動が自尊心を高め、それが野菜・果物摂取を増やす」という因果の流れが証明されたわけではなく、そうした経路と矛盾しないデータが得られた、という段階にとどまる。また、対象は中国の特定の5省の大学生であり、他の年代や地域、文化的背景を持つ人々にそのまま当てはまるかどうかも分からない。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点には留意したい。
まとめ
この研究では、身体活動と野菜・果物摂取という2つの健康行動が単に相関しているだけでなく、自尊心や抑うつ症状といった心理的な要因を介して結びついている可能性が示された。著者らは、大学生の健康増進プログラムにおいて、身体活動の促進、前向きな自己評価、心の健康、食事に関する指導を組み合わせて働きかけることが有益かもしれないと述べている。運動と食事、そして心の健康は、別々に語られがちだが、互いに関わり合っているのかもしれない――そんな視点を与えてくれる研究だ。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:心理的経路を介した中国人大学生における身体活動と果物・野菜摂取の関係(サイエンティフィック・リポーツ・2026年07月)