ドライフルーツやフリーズドライ食品を作るとき、生の果物からどれだけ効率よく水分を抜けるかは、加工時間やエネルギーコスト、そして仕上がりの色や風味に直結する重要な問題です。リンゴスライスを乾燥食品に加工する際にも、乾燥前の下処理(前処理)の方法が品質を左右することが知られています。今回紹介する研究では、「高湿度熱風衝突ブランチング(HHAIB)」と呼ばれる前処理技術がリンゴの乾燥や品質にどのような影響を与えるのか、そしてなぜそのような効果が起こるのかを、細胞壁や分子レベルまで踏み込んで調べています。
HHAIBは、高温多湿の熱風を勢いよく食品にぶつけることで短時間に加熱する技術で、果物の効率的な前処理法として注目されているとのことです。ただし、リンゴの加工におけるその効果や、体の中で何が起きているのかという仕組みについては、これまではっきりしていなかったと研究では述べられています。そこで研究チームは、リンゴにHHAIBを施した際の酵素の働き、乾燥のしやすさ、色や成分などの理化学的な性質を調べ、特に細胞壁を構成する「ペクチン」という多糖類の変化に注目しました。
研究でわかったこと
実験の結果、HHAIB処理によって「水溶性ペクチン」の量が有意に増加した一方、「キレート可溶性ペクチン」と「Na₂CO₃可溶性ペクチン」の量は著しく減少したと報告されています。さらに、水溶性ペクチンは分子量が大きくなり、逆にNa₂CO₃可溶性ペクチンは分子量が小さくなったとされています。
顕微鏡による観察では、HHAIB処理によって細胞膜の構造が徐々に壊れ、細胞壁の中間層とペクチンの分解が引き起こされたことが確認されたとのことです。こうした微細構造の変化が細胞組織のまとまりを直接損ない、その結果として乾燥が進みやすくなり、乾燥時間が19.4〜43.9%短縮されたと説明されています。
また酵素活性については、ブランチング処理によって「ペルオキシダーゼ」という酵素が効果的に不活性化され、それに伴ってリンゴスライスの表面の色が改善したとされています。さらに興味深いことに、HHAIBを50秒間行ったリンゴスライスでは、フェノール類、フラボノイド、抗酸化活性がもっとも高く保たれていたと報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、HHAIBという前処理技術がリンゴの乾燥効率や品質にどう関わるのかを、マクロな観察から細胞壁・分子レベルの変化まで一貫して調べた点に特徴があります。ただし、これは一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。処理時間(50秒など)や測定された成分・活性の変化はあくまで今回の実験条件下での結果であり、他の品種や条件でも同様の結果になるとは限らない点に留意が必要です。また、フェノール類や抗酸化活性が高く保たれたという結果は、健康への効果を直接示すものではなく、あくまで成分や活性の測定値に関する報告である点にも注意してください。
まとめ
この研究では、高湿度熱風衝突ブランチング(HHAIB)という前処理技術が、リンゴの細胞膜や細胞壁のペクチン構造を変化させることで乾燥時間を短縮し、同時に酵素の働きを抑えて表面の色や一部の機能性成分の保持にも関わりうることが示されました。果物の加工技術における前処理の役割を、細胞・分子レベルの仕組みまで踏み込んで示した点で、食品加工技術の応用可能性を考えるうえで参考になる知見だといえるでしょう。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:高湿度熱風衝突ブランチング(HHAIB)がリンゴスライスの乾燥・品質特性に及ぼす影響のメカニズム:マクロレベルから細胞壁・分子レベルまで(エルダブリューティー・2026年07月)