お寿司や刺身で親しまれるトラフグ。実はトラフグ(Takifugu rubripes)は、見た目がよく似たカラス(T. chinensis)やショウサイフグ(T. pseudommus)と形態的に区別しづらく、種の同定や食品表示の正確さを保つうえで課題になっているといいます。同じトラフグの中でも、個体によって体表や尾びれの色合いにばらつきが見られることがあり、こうした色の違いがどこから生じるのかは、種の分類を考えるうえでも興味深いテーマです。
今回紹介する研究では、養殖されたトラフグのうち、尾びれの色が異なる6個体を対象に調査が行われました。具体的には、以前の研究でゲノム上の大きな欠失と関連づけられていた8種類の転写産物(遺伝子から作られるRNA)に着目し、背中の皮膚と尾びれの組織を用いて定量的リアルタイムPCRという手法でその発現量を調べました。
研究でわかったこと
比較の結果、尾びれ全体がピンク色の個体と、ピンクと黒が混ざった尾びれを持つ個体との間で、発現量に差が見られました。ENSTRUG30845、GPD2、ENSTRUG28536という3つの転写産物は、ピンクと黒が混ざった尾びれを持つ個体で、ピンク一色の個体と比べて1.3〜2.8倍程度、有意に高く発現していたと報告されています。一方、残りの転写産物については、はっきりとした発現量の違いは確認されなかったとのことです。
特に注目されているのが、GPD2という遺伝子です。これはミトコンドリアで酸化還元のバランスを調節する酵素に関わる遺伝子とされ、この発現が高まっていたことから、研究チームは、色素沈着の違いがゲノムそのものの違いというよりも、代謝や転写後の調節といった仕組みと関連している可能性を示唆しています。つまり、遺伝子の設計図(DNA配列)自体が違うのではなく、同じ設計図から生じる遺伝子の「使われ方」の違いが、色の見た目の多様性に関わっているのではないか、という見方です。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、養殖トラフグ6個体という限られたサンプルを対象に、あらかじめ選ばれた8種類の転写産物の発現量を調べたものです。色素沈着の多様性が、環境や発育の過程によって遺伝子の働き方が変化する「表現型の可塑性」によって生じている可能性を示すものであり、一つの研究として興味深い知見ですが、これだけでトラフグの分類基準や色の決まり方が確定したわけではありません。
また、この記事は食品としての栄養価や健康効果について述べたものではなく、あくまで魚の見た目の多様性と遺伝子発現の関連を調べた基礎研究の紹介です。
まとめ
今回の研究では、養殖トラフグの尾びれの色の違いに、GPD2をはじめとする一部の転写産物の発現量の変化が関連している可能性が示されました。ゲノムの構造そのものよりも、代謝や転写後の調節といった仕組みが色の多様性に関わっているのではないか、という視点を提供する内容だといえます。今後、こうした知見がトラフグと近縁種の見分け方や食品表示の正確性向上にどうつながっていくのか、続報が待たれるところです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:養殖トラフグ(Takifugu rubripes)における色素沈着変異に関連する差次的転写産物発現(アプライド・バイオロジカル・ケミストリー・2026年07月)