一口かじると、果汁が飛び出してくる。赤いトマト(生)の水分量は100gあたり94g——重さのほぼすべてが水で構成されていることになる。それなのに、あの鮮やかな赤と独特の酸味と甘みは、いったいどこから来るのだろうか。
6月上旬、露地栽培のトマトが少しずつ店頭に顔を出しはじめる時期だ。ハウス栽培のものは一年を通して出回るが、梅雨の晴れ間に畑で育つ露地トマトが盛りを迎えるのは6月から8月にかけて。今はちょうど走り——まだ数は少ないが、産直コーナーや直売所でも見かけはじめる、一年ぶりの顔合わせだ。
残りの6gに、夏がある
エネルギーは100gあたり20kcal。中玉トマト一個を例えば約150gとして換算すれば、約30kcalという概算になる。夏の間、気兼ねなく食べ続けられる軽さだ。この数値は水分94%という組成と直結していて、重さのほとんどを水が占めることでカロリーも自ずと低くなる。
では、94gの水分を除いた残り約6gに何があるか——そこにトマトの個性がある。
0.4gが、あの酸味をつくる
まず注目したいのが、100gあたり0.4gのクエン酸だ。レモンや梅など酸味の強い食品にも多く含まれる有機酸の一つで、さっぱりとした酸っぱさのもとになる成分である。水分が9割以上を占める野菜にあって、これほど際立った酸味が感じられるのは、このクエン酸が一因になっている。
加えて、トマトの赤さを生むのが色素成分のリコピン。夏の日差しをたっぷり受けて熟したものほど深みのある赤みに育つといわれ、露地栽培のトマトが色濃くなるのもリコピンのはたらきと無関係ではない。食塩相当量は100gあたり0g——もとから塩気がないにもかかわらず、切っただけでしっかり味が感じられるのは、クエン酸をはじめとする成分が食味をつくっているためだ。
走りの一個、まずは切るだけから
走りのトマトは、シンプルな食べ方がいちばん映える。よく冷やして厚めにスライスし、オリーブ油をひとたらしするだけで夏の一皿になる。リコピンは油に溶けやすい性質の色素で、油と合わせる食べ方は世界各地の料理に昔から見られる。もっとも、一品に特別な効果を期待するより、旬の野菜を日々の食事に取り入れる楽しみとして気軽に向き合うのがちょうどいい。
ソースや汁物に加えるとクエン酸由来の酸味がまろやかになり、また別の顔を見せる。盛りには多めに購入してソースを仕込み、小分けして冷凍しておけば、秋以降の食卓にも夏の赤を届けられる。まずは走りのいまを、切るだけの一皿から始めてみたい。
ほとんどが水でできているのに、食べると確かに夏を感じる。残り約6gの中に、トマトをトマトたらしめるものが詰まっている。毎年このひと口目が待ち遠しいのは、きっとそのためだ。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)のデータ等をもとに作成しました。