お寿司や干物、魚介の加工品など、海産食品は私たちの食卓に欠かせない存在です。しかしその一方で、海の生態系は不確実性が高く、水揚げから加工、流通、販売に至るまでのサプライチェーンも複雑なため、食品安全に関する事故が世界的な課題となっています。今回紹介する研究は、海産食品の安全事故がどのような要因の組み合わせによって発生しているのかを、体系的に分析したものです。

研究チームは、航空事故などの分析に使われてきた「HFACS」というヒューマンエラー分析モデルを応用した独自の枠組み(HFACS-TERモデルに基づく多次元リスクポイント特定・ガバナンスフレームワーク)を構築しました。この枠組みを用いて、中国国内で2017年から2022年にかけて発生した456件の海産食品安全事故を対象に、リスクがどの工程で、どのような要因が絡み合って生じたのかを分析しています。分析には「ファジィ集合質的比較分析(fsQCA)」という手法が用いられ、単一の原因ではなく複数の要因の組み合わせ(因果構成)が事故につながるパターンを探る形が取られました。

研究でわかったこと

分析の結果、事故につながりやすい8つの高リスクポイントは、主に生産・物流・販売の各工程に集中していることが示されました。事故の起き方には大きく2つの傾向があるとされています。まず、全体の54.3%は、基準違反や不適切な取り扱いといった「明確な不安全行動」によって直接引き起こされたと報告されています。一方で32.9%は、不安全行動が生じやすい前提条件、監督の不備、組織的な要因、事後の結果管理といった複数の「潜在的な要因」が絡み合って発生したとされています。

さらにfsQCAによって、事故に至る8つの因果構成が特定され、これらは大きく3つのパターンに分類されています。すなわち、現場の行動そのものが引き金となる「行動主導型」、監督・監視体制の不備が背景にある「監督失敗型」、そして複数の構造的な弱点が重なり合う「システム脆弱性型」です。

これらの分析結果を踏まえ、研究チームはパターンごとに異なる3つのガバナンス(管理・統治)の方向性を提案しています。行動主導型の事故には信用制約や罰則の強化、システム脆弱性型の事故にはブロックチェーンを用いたトレーサビリティ(追跡可能性)の確保や関係者間の連携強化、監督失敗型や複合的な失敗パターンにはインテリジェントな監視技術の活用や市民参加の促進が、それぞれ有効である可能性が示唆されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、中国国内で報告された456件の海産食品安全事故という特定のデータセットを対象とした分析です。得られたパターンやガバナンスの方向性は、あくまでこの事例群の分析から導かれたものであり、海産食品全般や他の地域・状況にそのまま当てはまるとは限りません。また、fsQCAという手法は要因間の組み合わせパターンを整理するものであり、個々の事故の唯一絶対の原因を特定するものではない点にも留意が必要です。本研究は一つの分析であり、これによって食品安全リスクの管理方法が確定的に定まったわけではありません。

まとめ

今回紹介した研究では、海産食品の安全事故が「明確な不安全行動」と「複数の潜在的要因の絡み合い」という2つの経路で発生しうることが報告され、事故の型に応じて罰則強化、トレーサビリティ技術、監視・市民参加といった異なる対策を組み合わせる必要性が示唆されています。食の安全は生産から販売まで多くの関係者が関わる複雑な仕組みの上に成り立っており、こうした学術的な分析はその仕組みを見直す手がかりの一つになりそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:多次元リスクポイント特定・ガバナンスフレームワーク:海産食品安全事故からの知見(フロンティアーズ・イン・サステナブル・フード・システムズ・2026年07月)