著者の所属・活動拠点の国は、モロッコ、イタリア、サウジアラビアです。
掲載誌:Frontiers in Sustainable Food Systems
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
スーパーやレストランで提供される食品は、国や地域ごとに衛生基準への適合性が検査・監視されています。では、どんな種類の食品が基準を満たしにくく、季節によって傾向は変わるのでしょうか。今回紹介するのは、モロッコのマラケシュ・サフィ地方における食品の微生物学的コンプライアンス(衛生基準への適合状況)を、7年間にわたる監視データから分析した研究です。生野菜や調理済み料理、乳製品など、身近な食品カテゴリーごとに違いがあるのか、季節は関係するのかを検証しています。
研究でわかったこと
この研究では、2018年から2024年にかけて、モロッコのマラケシュ・サフィ地方の給食施設や高リスクとされる施設から採取された食品サンプル、合計3,823件について、モロッコの公式手順に基づく微生物検査の結果が分析されました。対象となった食品カテゴリーは、野菜・生サラダ類(サラダや生ハーブなど)、植物性の調理済み料理(調理済み野菜サラダなど)、動物性の調理済み料理(グリル肉など)、そして牛乳・乳製品(生乳や伝統的な発酵乳など)です。
分析の結果、全体の適合率は66.49%(2,542件)で、33.51%(1,281件)が不適合と判定されました。適合率は2018年の58.04%から2024年には76.47%まで改善する傾向が見られましたが、2022年には58.01%まで一時的に低下したことも報告されています。季節別に見ると、不適合の割合は夏季で38.9%、冬季で28.2%と、記述統計上は夏季の方が高い傾向が示されました。
食品カテゴリー別では、野菜・生サラダ類の不適合率が56.8%と最も高く、一方で動物性の調理済み料理は適合率が88.3%と最も高いという結果でした。検出された主な微生物は大腸菌(54%)と糞便性大腸菌群(22%)でした。
さらに、製品カテゴリー・季節・両者の交互作用を含めた二項ロジスティック回帰分析が行われた結果、不適合の主な決定要因は製品カテゴリーであり、製品タイプを考慮すると季節単独では不適合との独立した関連は認められなかったとされています。特に野菜・生サラダ類は、乳製品と比較して不適合のオッズが有意に高い(調整オッズ比3.73、95%信頼区間2.00〜6.94、p<0.001)と報告されています。なお、動物性の調理済み料理と乳製品との間には、交互作用を考慮すると有意な差は見られなかったとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
著者らは、こうした結果を踏まえ、とりわけ生野菜や、調理の過程で人の手による扱いが多く必要とされる即食可能な食品を優先した対策が望ましいと考察しています。また、季節ごとの監視は運用上は有用であり得るものの、季節そのものが独立したリスク要因であるという証拠については慎重に扱うべきだとも述べられています。
加えて、著者らは重要な限界点を明記しています。今回のサンプリングは高リスクとされる施設を対象に重点的に行われたものであるため、この結果はマラケシュ・サフィ地方の食品供給全体における有病率の推定値ではなく、あくまで検査対象となった高リスク施設における微生物学的コンプライアンスの傾向を反映したものだと説明されています。この研究は一つの地域・期間のサーベイランスデータに基づくものであり、これをもって結論が確定したわけではない点にも留意が必要です。
まとめ
今回紹介した研究では、モロッコのマラケシュ・サフィ地方における7年分の食品衛生監視データを分析した結果、全体的な適合率は年々改善傾向にある一方、野菜・生サラダ類は他の食品カテゴリーと比べて不適合率が高いことが示されました。季節よりも食品の種類そのものが不適合と強く関連していたという点は、今後の衛生管理のあり方を考えるうえで興味深い知見といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):食品の微生物学的コンプライアンス:サーベイランスデータに基づく製品タイプと季節の影響(フロンティアーズ・イン・サステイナブル・フード・システムズ・2026年07月)
著者:Morad Kaddouri(Laboratory of the Engineering and Applied Technologies, Higher School of Technology, Sultan Moulay Slimane University, Beni Mellal, Morocco)、Salah Chaji(Department of Drug Science and Technology, University of Turin, Turin, Italy)、Omar Ait El Alia(Laboratory of the Engineering and Applied Technologies, Higher School of Technology, Sultan Moulay Slimane University, Beni Mellal, Morocco)、Abdennacer El Mrabet(Laboratory of Therapeutic Innovation and Artificial Intelligence in Health, Research Team on Pharmaceutical and Analytical Development, Faculty of Medicine and Pharmacy, Hassan II University of Casablanca, Casablanca, Morocco)、Abdelaziz Ait Melloul(Faculty of Sciences Semlalia, Laboratory of Water Sciences, Microbial Biotechnologies and Natural Resources Sustainability (AQUABIOTECH), Unit of Microbial Biotechnology, Agro Sciences and Environment (BIOMAGE)-CNRST Labeled Research Unit N° 4, Cadi Ayyad University (UCA), Marrakech, Morocco)、Mohammed Al-Zharani(Biology Department, College of Science, Imam Mohammad Ibn Saud Islamic University (IMSIU), Riyadh, Saudi Arabia)、Fahd A. Nasr(Biology Department, College of Science, Imam Mohammad Ibn Saud Islamic University (IMSIU), Riyadh, Saudi Arabia)、Khalid Boutoial(Laboratory of the Engineering and Applied Technologies, Higher School of Technology, Sultan Moulay Slimane University, Beni Mellal, Morocco)