ヘンプシード(麻の実)は、健康に良いとされる多価不飽和脂肪酸(PUFA)を豊富に含む食材として関心が高まっています。しかし、こうした油の脂肪酸を分析する際、実験室でどのような「抽出方法」や「前処理(誘導体化)方法」を使うかによって、得られる結果そのものが変わってしまう可能性がある、という点はあまり注目されてきませんでした。今回紹介する研究は、この「分析方法の違い」がヘンプシード油の脂肪酸組成の測定にどれほど影響するのかを、ルーマニアの繊維用ヘンプ品種を用いて検証したものです。

研究でわかったこと

この研究では、油を種子から取り出す「抽出」の段階でマイクロ波を使う方法とソックスレー法という従来法を比較し、さらに分析のために脂肪酸を化学的に処理する「誘導体化」の段階でも酸性条件と塩基性条件を比較しました。これらの組み合わせが、脂肪酸の組成、脂質の質を示す各種指標、そして油の酸化しやすさ(酸化安定性)にどう影響するかを調べています。

その結果、分析された油はいずれもリノール酸とα-リノレン酸が主成分であり、PUFAと飽和脂肪酸(SFA)の比率や、オメガ6とオメガ3の比率も好ましい値を示したと報告されています。また、動脈硬化や血栓のリスクに関連するとされる指数(アテロジェニック指数・スロンボジェニック指数)は低く、コレステロールに関わる指標(低コレステロール血症性/高コレステロール血症性比)も良好な値であったとされ、総じて栄養学的に優れた性質を持つ油であることが示唆されています。

一方で統計解析からは、抽出方法と誘導体化方法の違いが、脂肪酸組成や脂質品質指標に有意な影響を与えることが確認されました。さらに主成分分析という手法を用いた結果、こうしたばらつきの主な要因は「抽出方法」であることが示されています。加えて、酸化安定性は脂肪酸組成との間に中程度の相関が見られ、脂質のプロファイルの違いが酸化されやすさに関わっている可能性が示唆されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究はルーマニアの繊維用ヘンプ品種を対象としたものであり、この結果がすべてのヘンプ品種や産地に当てはまるかどうかは、この要旨だけからは判断できません。また、今回の知見はあくまで一つの研究によるものであり、結論が確定したわけではない点にも留意が必要です。研究者らは、こうした分析方法による結果のばらつきを踏まえ、ヘンプシードの脂質分析を標準化された手法で行うことの重要性を指摘しています。

まとめ

今回紹介した研究は、ヘンプシード油そのものの栄養価の高さを示すと同時に、「何をどう測るか」という分析手法の違いが結果に無視できない影響を与えることを明らかにしたものです。食品や成分の研究データを見る際には、こうした分析条件の違いが結果に影響しうるという視点も、内容を理解するうえで一つの手がかりになりそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:抽出法依存性が示すヘンプシード脂質分析の変動性:抽出法、誘導体化法、遺伝子型が脂肪酸組成と安定性に与える複合的影響(モレキュールズ・2026年07月)