とうがらしの乾燥果実には、β-クリプトキサンチンという色素成分が可食部100gあたり7400µg含まれています。これはとうがらし 果実 乾の実測値ですが、この数字だけを見て「唐辛子はすごい」と思うのは、実はまだ早い話です。

β-クリプトキサンチンとは何か

β-クリプトキサンチンは、かんきつ類や唐辛子、とうもろこし、かぼちゃ、柿などに含まれる黄色やオレンジ色の色素成分です。体内でビタミンAに変わる性質を持つため「プロビタミンA」と呼ばれる仲間の一つで、β-カロテンやα-カロテンと同じグループに分類されます。ちなみに変換の効率には差があり、β-カロテンは体内で1/12がビタミンAの活性量(レチノール活性当量)に換算されるのに対し、α-カロテンとβ-クリプトキサンチンは1/24とされています。この成分には食事摂取基準の推奨量のような数値の基準は設定されていませんが、「どの食品に多く含まれるか」を知ることには十分な意味があります。

上位に並ぶのは、まさかの唐辛子勢

β-クリプトキサンチンの含有量が多い食品を並べると、上位は見事に唐辛子とその仲間で埋まります。1位は先のとうがらし 果実 乾で7400µg。この食品はビタミンB6も3.81mg含み、これは女性30〜49歳の推奨量1.2mg/日の317%にあたります。ビタミンB6はアミノ酸の代謝に関わり、たんぱく質からのエネルギー産生や皮膚・粘膜の健康維持を助ける栄養素です。ただしこれは乾燥唐辛子100gあたりの割合で、実際に料理で使う量はごくわずかなので、過剰摂取を心配する数字ではありません。

2位はくこ 実 乾で4400µg。杏仁豆腐などに乗っている、あの赤い実です。ここで一度立ち止まりたいのですが、くこの実は料理に使う際、ひと皿に乗せる量はほんのわずかです。100gあたりの数値がどれだけ大きくても、実際に口にする量はスプーン一杯にも満たないのです。

「では次は柑橘か」——いや、また裏切られる

プロビタミンAといえば温州みかんのβ-クリプトキサンチンが有名なので、3位あたりでかんきつ類が出てくると予想したくなります。ところが3位に来るのはチリパウダー(3100µg)。とうがらしにオレガノなどを混ぜた洋風の混合香辛料で、ここでも主役は唐辛子です。このチリパウダー、鉄も29mg含み、月経なし女性30〜49歳の推奨量6.0mg/日に対して483%、月経あり女性の推奨量10.5mg/日に対しては276%という数字になります。鉄は赤血球のヘモグロビンの成分として酸素の運搬に関わる栄養素ですが、この割合はあくまで100gあたりの計算です。チリパウダーの使用量は小さじ1杯でおよそ2g程度なので、実際に摂れる鉄はごく少量にとどまります。

4位はとうがらし 粉(2600µg)、5位はとうがらし 果実 生(2200µg)と、上位5食品はすべて唐辛子そのものか、唐辛子を主原料とした調味料でした。柑橘やとうもろこし、かぼちゃも含有食品として知られていますが、この上位5食品に限れば「唐辛子」という一本の糸で貫かれているのです。

見た目の強さと、実際の摂取量

ここまでの数字を振り返ると、上位食品はどれも際立った値を示しました。しかし乾燥くこの実は一度に使う量がごくわずかで、チリパウダーも小さじ1杯で約2gしか使いません。100gという量は、これらの食品を料理で使う実際の量からすると非現実的なほど多いのです。つまり100gあたりランキングの見た目の強さは、そのまま日常の摂取実感には結びつきません。同じことは併記した他の栄養素の割合表示にも言えます。パーセンテージの数字が大きく見えても、実際に使う量が数g程度であれば、体に入る絶対量はごくわずかということです。

まとめ:少量ずつの組み合わせが現実的

β-クリプトキサンチンは体内でビタミンAに変わるプロビタミンAの一つですが、上位食品を一度にたくさん食べるという発想は、この成分の性質からしても現実的ではありません。むしろ、くこの実を数粒、七味やチリパウダーをひとふり、生の唐辛子を薬味に少々——そうして少量ずつ使う食品なのだと捉え、100gあたりの数字の大きさに引っ張られず、いろいろな食品を少しずつ組み合わせて食卓に取り入れるくらいがちょうどよい付き合い方と言えそうです。

※特定の食品の効果・効能を示すものではありません。

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。

栄養素のはたらきの記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2025年版)