著者の所属・活動拠点の国は、サウジアラビア、ヨルダン、スーダンです。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
アラブ首長国連邦、バーレーン、サウジアラビア、オマーン、カタール、クウェートの6か国からなる湾岸協力会議(GCC)の国々は、過体重や肥満の割合が世界でも高い地域です。論文が紹介する2024年の推計では、GCC諸国の5歳未満の子どものうち8.4〜10.1%が過体重で、世界平均の5.5%を上回ります。5〜19歳ではこの割合が39〜47%に達し、世界平均の20%を大きく上回っています。
著者らは背景として、超加工食品や砂糖入り飲料の入手しやすさと消費の増加、身体活動の不足、不健康な食品の広告の広がりなどを挙げています。超加工食品とは、家庭の調理では通常使わない原材料や添加物を含む工業的な食品で、清涼飲料や多くの包装スナック菓子などが例です。
この研究の目的は、GCC6か国で子どもの肥満予防に関わる政策がどこまで整えられているかを整理し、実施を妨げている要因を明らかにし、各国と地域全体で優先すべき取り組みを示すことです。
どのように調べたか
研究チームは新たな調査を行ったのではなく、既存の地域報告書2本の内容を統合して分析しました。1本は湾岸疾病予防管理センター(Gulf CDC)による非感染性疾患関連政策の調査、もう1本はユニセフ、Gulf CDC、世界保健機関(WHO)による子どもの過体重予防のための食料システムに関する報告書です。
分析の対象は、国の戦略、規制、指針、プログラムなどの政策関連文書103件と、行政、公衆衛生機関、学術界などの関係者への聞き取り32件です。聞き取りの内容は、どの割合の人がどう考えているかを示す数値ではなく、政策の実施状況を理解するための背景情報として扱われました。
整理には、ユニセフの「子どものための食料システム」という枠組みが使われました。これは取り組みを「子どもの食べ物の改善」「子どもを取り巻く食環境の改善」「子どもの食習慣の改善」の三つの領域に分ける考え方です。また著者らは、政策が存在することと、実際に実施され、監視・評価されていることを区別して整理しました。
主な結果:政策はあっても実施に隔たり
研究チームによると、各国で政治的な意欲は高く、国家戦略も幅広く存在する一方、政策と実際の実施の間には大きな隔たりがありました。たとえば、栄養情報を包装の表面に分かりやすく示す表示制度は3か国(UAE、サウジアラビア、オマーン)で導入されていますが、いずれも任意で、同じ国の中でも食品メーカーに一様には採用されていません。子ども向けの不健康な食品の広告規制も部分的にとどまり、特にデジタル媒体での広告が課題として挙げられました。
6か国すべてに学校での栄養対策と乳幼児の栄養・授乳に関する政策がありますが、資金配分や実施範囲、目標の明確さには国によってばらつきがありました。学校の取り組みはいくつかの国で任意であり、その実施の監視は不均一または不明確とされています。一方でクウェートとカタールでは、学校の食環境を監督する仕組みを含む、より体系的な枠組みがあるようだと報告されています。娯楽施設や観光施設など、学校や医療機関以外で子どもが利用する場所の食事に関する方針は、ほとんど見られませんでした。
聞き取りからは、保健、教育、都市計画、食品などの分野が縦割りで動き、責任の所在や監視の体制、財源が不十分なため、戦略があっても実行が不均一になっているという見方が示されました。子どもの過体重・肥満の監視調査も国によって一貫しておらず、成果評価の仕組みを持たないプログラムが多いことも指摘されています。
なお論文は、子ども向け食品広告に関する湾岸地域の基準が、2025年10月29日に承認された湾岸技術規則によってGCC全体で義務的なものになったことにも触れています。そのうえで、今後の課題は地域の規則がないことよりも、各国での実施、執行、監視、特にデジタル環境での対応にあると述べています。
研究チームの提案とこの研究の意味
研究チームは三つの領域に沿った地域共通の行動計画を提案しています。子どもの食べ物については、地域の食事指針や、子どもがよく口にする食品の栄養基準づくり。食環境については、砂糖入り飲料への課税や包装表面の表示の強化、デジタル広告を含む広告規制、学校での砂糖入り飲料や超加工食品の禁止を含む学校給食基準の義務化と執行。食習慣については、母乳育児相談への保険適用の義務化や、家族の健康的な食事づくりを支える地域の取り組みなどです。
著者らは、この研究が文書に記された政策の状況と報告された実施上の課題を示すものであり、個々の政策が子どもの肥満を減らしたという因果関係を示すものではないと明記しています。政策が存在しても、それだけで実施や効果が確かめられたことにはなりません。
この研究は、湾岸6か国で子どもの肥満予防に向けた政策の土台が築かれつつある一方、それを確実に実行し、効果を確かめる仕組みがまだ追いついていないことを、地域全体を見渡して示しています。
原著論文の著者・所属:Nada Alnaji(Public Health Programs and Policies, Gulf Center for Disease Prevention and Control, Riyadh 12512, Saudi Arabia)、Ghadeer S. Aljuraiban(Department of Community Health Sciences, College of Applied Medical Sciences, King Saud University, Riyadh 12371, Saudi Arabia)、Kate Heneghan(Center of Excellence, United Nations Children’s Fund (UNICEF), Amman 11821, Jordan)、Najla Alorayyidh(Public Health Programs and Policies, Gulf Center for Disease Prevention and Control, Riyadh 12512, Saudi Arabia)、Aashima Garg(Center of Excellence, United Nations Children’s Fund (UNICEF), Amman 11821, Jordan)、Jumana Haj-Ahmad(Gulf Area Office, United Nations Children’s Fund (UNICEF), Riyadh 94623, Saudi Arabia)、Sarah Zahr(Center of Excellence, United Nations Children’s Fund (UNICEF), Amman 11821, Jordan)、Qureshi Abdul Baseer(Eastern Mediterranean Regional Office, World Health Organization (WHO), Khartoum 2234, Sudan)、Rasha Alfawaz(Public Health Programs and Policies, Gulf Center for Disease Prevention and Control, Riyadh 12512, Saudi Arabia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nada Alnaji, Ghadeer S. Aljuraiban, Kate Heneghan, et al. Transforming Food Systems for the Prevention of Childhood Overweight and Obesity in the Gulf Region. Nutrients 2026-10-20. DOI: 10.3390/nu18203435. 原著ライセンス:CC BY.