著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。
掲載誌:Frontiers in Horticulture
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
スーパーで売られている葉物野菜の中には、太陽光ではなくLED照明を使った「植物工場」で栽培されているものが増えています。LEDは光の色(波長)を自由に組み合わせられるため、光の当て方を工夫することで野菜の育ち方や中身の成分をコントロールできるのではないか、という研究が世界各地で進められています。今回紹介する論文は、白色LEDを基本にしながら「赤色光」と「遠赤色光」を追加で当てることで、レタスとケールの成長や、抗酸化物質などのフィトケミカル(植物由来の機能性成分)の蓄積がどう変わるかを調べたものです。
研究でわかったこと
この研究では、制御された環境の植物工場で、光合成に使われる光の強さ(PPFD)を100 μmol m-2 s-1、1日16時間の照明(16時間明期・8時間暗期)、温度23±2℃、湿度35〜40%という条件のもと、レタス(Lactuca sativa L.)とケール(Brassica oleracea L.)を栽培しました。光の当て方は次の4パターンで比較されています。①白色光のみ(対照区)、②白色光+赤色光、③白色光+遠赤色光、④白色光+赤色光+遠赤色光、の4条件です。
レタスでは、赤色光を加えることで葉の数が34.5%、葉の面積が56.5%、乾燥重量が18.8%、それぞれ白色光のみの場合より増加したと報告されています。一方、遠赤色光を加えると、草丈が56.4%、生鮮重量が27.2%増加したとされました。ケールでは、赤色光と遠赤色光を両方加えた条件で、草丈が54.7%、葉の数が17.3%、葉の面積が43.9%、生鮮重量が23.4%増加したということです。
光合成の効率を示す指標(Fv/Fm)は、赤色光と遠赤色光を両方加えた条件で、レタスで10.6%、ケールで16.7%上昇し、大きく崩れることなく安定していたとされています。また、気孔の開き具合を示す指標(気孔コンダクタンス)は、レタスでは遠赤色光条件で62.5%、ケールでは赤色光+遠赤色光条件で46.2%増加したと報告されています。
色素や機能性成分については、レタスでは遠赤色光によってクロロフィルaが35%、クロロフィルbが36.5%増加し、赤色光と遠赤色光の組み合わせによってカロテノイドが54%、アントシアニンが30.9%増加したとされています。ケールでは、赤色光を加えた条件でクロロフィルが66.5%と43.2%増加し、赤色光+遠赤色光の条件ではアントシアニンが572%という大きな増加を示したということです。
抗酸化に関わる成分としては、総フェノール量がレタスで11.1%(赤色光+遠赤色光条件)、ケールで10.7%(赤色光条件)増加し、フラボノイド量はレタスで30.8%、ケールで18.1%増加したと報告されています。抗酸化能を示す2つの指標(DPPH、FRAP)についても、条件によって数%から最大で56.9%(ケールのFRAP、赤色光条件・遠赤色光条件)の増加がみられたとされました。
一方で、アミノ酸の量には目立った変化がなかったものの、硝酸塩の含量は遠赤色光を含む条件でレタス・ケールともに増加したと報告されています(レタスで最大53.6%、ケールで最大69.1%の増加)。また、主成分分析という統計手法により、レタスは色素の合成に関わる反応、ケールは窒素代謝や抗酸化活性に関わる反応と、種によって異なる特徴を示したとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、特定の栽培条件(光の強さ・日長・温度・湿度など)のもとで、レタスとケールという2種類の野菜を対象に行われた実験結果です。今回の要旨には、実験がどの程度の期間・株数で行われたか、屋外栽培や他の野菜への当てはまりについては記載がありません。また、抗酸化能や機能性成分の増加が示されたことと、実際に食べたときの健康への効果とは別の話であり、この研究はあくまで栽培段階での成分変化を測定したものです。硝酸塩の増加についても言及されており、成長やフィトケミカルを増やす光条件が、必ずしも良い面ばかりをもたらすわけではない点も研究の中で示されています。一つの研究であり、結論が確定したものではない点にも留意が必要です。
まとめ
この研究では、白色LEDに赤色光や遠赤色光を追加することで、レタスとケールの成長の仕方や、クロロフィル・カロテノイド・アントシアニン・フェノール類・フラボノイドといった色素や機能性成分の蓄積、そして抗酸化能に変化が生じることが示されました。同時に硝酸塩の含量も光条件によって増加する傾向がみられ、植物工場における光スペクトルの調整が、野菜の成長と成分の両面に影響しうることが示唆されています。今後、こうした知見が室内農業での野菜づくりにどう活かされていくのか、注目されるところです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):白色LED環境における補助的な赤色光・遠赤色光がレタスおよびケールの屋内栽培での成長、フィトケミカル、抗酸化物質蓄積を制御する(フロンティアーズ・イン・ホーティカルチャー・2026年07月)
著者:Md Obyedul Kalam Azad(epartment of Agriculture, Veterinary and Rangeland Sciences, University of Nevada, Reno, University of Nevada, Reno (UNR) Extension and Agricultural Experimental Station, Las Vegas, NV, United States)、Most Tahera Naznin(epartment of Agriculture, Veterinary and Rangeland Sciences, University of Nevada, Reno, University of Nevada, Reno (UNR) Extension and Agricultural Experimental Station, Las Vegas, NV, United States)