病院で提供される食事は、患者の回復を支える大切な要素です。近年、多くの病院が環境負荷の低い持続可能な食料政策と食事内容を両立させようとしていますが、そこには一つの壁があります。植物由来の食材だけで、必要なタンパク質量とアミノ酸バランスを満たし、なおかつ患者にとっておいしいと感じられる食事を作るのは簡単ではない、という点です。今回紹介する研究は、この課題に病院スタッフと食品関連企業が協力して取り組んだものです。

研究でわかったこと

この研究は2025年4月から12月にかけて、病院スタッフと産業界のパートナーが共同で行った多職種共創研究として実施されました。まず、臨床ガイドラインや病院の方針をもとに献立開発のための基準が定められ、多職種からなるチームがその優先順位を検討しました。その後、実際に調理や試食を重ねながらレシピを繰り返し改良し、栄養成分やアミノ酸バランス、味の面から最適化していったとされています。栄養価はオランダの食品成分データベースを用いて計算され、タンパク質の質については、複数のタンパク源を組み合わせた際の消化率とアミノ酸スコアをもとに評価されました。

その結果、30種類のレシピが開発され、これらを組み合わせた7日分の献立が作成されました。これらの献立は、大豆、レンズ豆、穀物、ナッツなどを主なタンパク源として、1日あたり90〜97gのタンパク質を提供する内容になっているとのことです。特に朝食や昼食では、量を増やさずにタンパク質量を確保するため、えんどう豆由来のタンパク質単離物や大豆ベースの飲料が取り入れられました。また、1日分の献立にかかる費用は10.50〜12.30ユーロの範囲だったと報告されています。

研究チームは、完全に植物由来の食事であっても、十分な量の、味の面でも受け入れられやすい、コスト面でも現実的なタンパク質を提供できる可能性があるとまとめています。ただし、タンパク質の質、味、コスト、量(ポータルサイズ)の間にはトレードオフが残ることも指摘されており、すべてを同時に最大化することは難しいようです。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、特定の病院や関係機関が実際の臨床現場での活用を想定して行った献立開発と評価の取り組みであり、動物性タンパク質から植物性タンパク質への切り替えを検討する病院にとって、一つの実践的な指針(ブループリント)を示すものと位置づけられています。一方で、この記事で紹介した内容はあくまで一つの研究成果であり、開発された献立が全ての病院や患者に一律に適しているかどうか、あるいは長期的な健康への影響がどうかについては、要旨の中では触れられていません。今後さらに検証が重ねられていく分野だと考えられます。

まとめ

今回の研究では、多職種のチームが協力しながら試作と改良を重ねることで、完全植物性でありながら十分なタンパク質量とアミノ酸バランスを備え、コスト面でも現実的な病院食の献立が開発されたと報告されています。持続可能な食料政策と患者の栄養管理を両立させる上で、味やコスト、量とのバランスをどう取るかという課題も浮き彫りになりました。今後、こうした知見が実際の病院の現場でどのように活用されていくのか、注目されるところです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:植物由来病院食の設計指針の開発:多職種共創研究(ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ニュートリション・2026年06月)