この研究は、イギリスの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Brain and Behavior

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

腸と脳は神経やホルモンなどを通じて互いに影響し合っていると考えられており、この結びつきは「腸脳相関」と呼ばれます。研究チームはこの考え方を背景に、プロバイオティクスの利用が気分、認知、消化器の状態とどう関係しているかを調べました。プロバイオティクスとは、適切な量をとったときに健康上の利益をもたらす生きた微生物のことです。

これまでの研究では、プロバイオティクスがおなかの症状や不安・抑うつに良い影響を示したという報告がある一方、はっきりした効果が見られなかったという報告もあり、結果は一致していません。また、多くの研究は病気のある人を対象としており、日常生活の中で利用している一般の人々についての情報は限られていました。

著者らは特に「とり方」の違いに注目しました。ヨーグルト、ケフィア、キムチ、コンブチャなどの発酵食品は含まれる菌の種類や量が一定でないため、厳密にはプロバイオティクスの定義を満たさないという指摘があります。そこで、サプリメントで摂る人と発酵食品で摂る人を同じ地域集団の中で比べることにしました。

何を調べたか

研究は、ある一時点での状態を調べる横断研究として行われました。大学とその周辺地域で、SNSの広告などを通じて18歳以上の成人150人(平均年齢は約26歳)を募り、オンラインの匿名アンケートに回答してもらいました。

参加者は自己申告にもとづいて、プロバイオティクスのサプリメントを使っている人(22人)、発酵食品をとっている人(48人)、どちらも使っていない人(80人)の3群に分けられました。菌の種類や量、利用期間も尋ねましたが、回答のばらつきや欠けが大きかったため、分析には使われていません。

調べた主な項目は、抑うつ症状、不安症状、ストレスから立ち直る力(レジリエンス)、消化器の症状、そして日常のうっかりミスや物忘れといった「認知の失敗」の5つです。加えて、危険な飲酒と摂食の乱れも探索的に調べました。いずれも標準化された質問票への自己回答で測定しています。

分析では、まず年齢などを考慮しない単純な比較を行い、次に年齢・性別・運動量を考慮したモデル、さらにプレバイオティクス(腸内細菌のえさとなる成分)の利用と菜食などの食事スタイルも加えたモデルで比較しました。また、多くの項目を同時に検定すると偶然の差が出やすくなるため、その分だけ基準を厳しくする補正(ボンフェローニ補正)も適用しています。

主な結果

年齢などを考慮しない単純な比較では、サプリメント利用者は非利用者に比べて、抑うつ症状と不安症状が低く、消化器症状が少なく、認知の失敗も少ないと報告していました。

年齢や運動量などの違いを考慮すると、結果は項目によって分かれました。消化器症状は、2つのモデルのどちらでもプロバイオティクスの利用と関連が見られ、最も一貫した結果となりました。不安症状と認知の失敗は最初のモデルでのみ関連が見られ、食事関連の要因を加えたモデルでは関連が弱まりました。ストレスから立ち直る力は逆に、最初のモデルでは差がなく、食事関連の要因を加えたモデルで初めて関連が現れました。

ただし、複数の項目を調べたことを考慮して基準を厳しくすると、これらの関連はいずれも統計的に意味のある水準には達しませんでした。また、発酵食品をとっている人は、どの項目でもほかの群と差が見られませんでした。危険な飲酒や摂食の乱れについても、群の間に差は認められませんでした。

研究チームは、もともと症状のある人がプロバイオティクスを使い始めている可能性も検討しました。年齢、性別、消化器の診断の有無、運動量、各種症状からプロバイオティクスの利用を予測できるかを調べたところ、はっきり利用と結びつく要因は見つかりませんでした。消化器症状が重い人ほど利用しやすい傾向はわずかに見られましたが、統計的に意味のある水準ではありませんでした。

さらに、各項目どうしの関係を見ると、抑うつと不安は強く連動しており、消化器症状はほかの6項目のうち5項目と中程度の関連を示しました。著者らは、おなかの症状が気分や認知の状態と結びついた中心的な位置にあることを示す結果だとしています。

この研究が示すこと

この研究では、地域の一般成人において、サプリメントによるプロバイオティクスの利用と最も一貫して結びついていたのは、おなかの症状の少なさでした。一方、気分や物忘れなどとの関連は、どの要因を考慮するかによって現れたり消えたりする不安定なものでした。

著者らは、どの関連も多重比較の補正後には残らなかったことから、結果はあくまで予備的なものと位置づけています。一時点の調査であるため、プロバイオティクスが症状を減らしたのか、それとも別の理由で両者が結びついているのかは、この研究からは判断できません。日常的な利用の実態を踏まえ、とり方の違いも含めて比べたことで、プロバイオティクスをめぐる議論に手がかりを加えた研究といえます。

著者:Kim-Marie Gehrke(School of Sport, Exercise and Health Sciences Loughborough University Loughborough UK)、Eef Hogervorst(School of Sport, Exercise and Health Sciences Loughborough University Loughborough UK)、Thomas D. W. Wilcockson(School of Sport, Exercise and Health Sciences Loughborough University Loughborough UK)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kim-Marie Gehrke, Eef Hogervorst, Thomas D. W. Wilcockson. Probiotic Use and Self‐Reported Psychological, Cognitive, and Gastrointestinal Outcomes in a Community Sample: A Cross‐Sectional Observational Study. Brain and Behavior 2026-10-01. DOI: 10.1002/brb3.71834. 原著ライセンス:CC BY.