この研究は、フィリピン、アメリカの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Fungal Biology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:マイタケ研究の全体像をつかむ

マイタケ(学名グリフォラ・フロンドサ)は食用きのこであると同時に、薬用きのことしても研究されてきました。多糖類、なかでもβグルカンと呼ばれる成分をはじめ、さまざまな成分が含まれています。これまでに、免疫の働きの調節、抗酸化、抗腫瘍、抗菌、代謝への作用といった生理活性との関連が調べられてきました。

個々の成分や作用を扱った総説はすでにあります。しかし、マイタケの生理活性研究という分野がいつ、どこで、誰によって進められ、どんなテーマへ移ってきたのかを数量的に描いた研究はまだ行われていなかったと、著者らは指摘しています。そこで研究チームは「科学計量学」の手法でこの分野の全体像を明らかにしようとしました。科学計量学とは、論文の数、引用のされ方、共著関係、キーワードの使われ方などを数えて分析し、研究分野の構造や変化を捉える方法です。

何を調べたか

研究チームは、論文データベースのScopusに収録された英語の原著論文を対象にしました。学名や「マイタケ」という呼び名に、抗酸化・抗腫瘍・免疫調節などの作用や、多糖類・βグルカン・ポリフェノールなどの成分を表す語を組み合わせて検索しました。対象期間は1980年から2025年までで、検索時点でまだ途中だった2026年の論文は除いています。既存の知見をまとめ直す総説論文も除外し、新しいデータを報告した一次研究に絞りました。

2人の著者がそれぞれ論文の題名と要旨を確認し、マイタケの生理活性と直接関係しない論文を取り除きました。最終的に605本が分析の対象となりました。表記ゆれのある著者名、機関名、キーワードはそろえたうえで、専用の解析ソフトを使っています。年ごとの論文数と引用数、主要な国・機関・著者・学術誌、国際的な共同研究のつながり、キーワードの共起関係とテーマの移り変わりを分析しました。

主な結果:東アジア中心に成熟へ向かう分野

論文数は1980年代から1990年代末まではまばらでした。2000年代初めに増え始め、2005年以降は伸びが強まっています。2010年代半ばからは年20本を超える年が多くなり、2025年に約40本で最多となりました。論文数の推移を、ある段階で増加が頭打ちになる成長曲線(ロジスティックモデル)に当てはめたところ、モデルはデータをよく説明していました(決定係数0.895)。この推計では、年間の論文数は2027年ごろに約37本で頂点を迎え、累積の論文数は最終的に約1,403本に近づくと見込まれます。著者らは、この分野が数十年の拡大期を経て成熟期に近づいていると解釈しています。引用数は2017年ごろに平均値が最も高くなりました。2022年以降は低下していますが、新しい論文は引用が集まるまでの時間が短いため、慎重に見るべきだと著者らは述べています。

国別では中国が238本で最も多く、日本が116本、米国が70本、台湾が37本、韓国が29本と続きました。論文数の多い研究者は日本の研究者が中心で、上位10機関のうち6つが中国、3つが日本、1つが台湾でした。製糖企業など産業界の研究組織も上位に入っており、応用・製品志向の研究への広がりがうかがえます。国際共同研究の網の目では、中国が最も多くの国とつながる拠点となっていました。日本も米国や欧州諸国と結びついた主要な拠点でした。ただし著者らは、この結果は英語でScopusに収録された論文の中での「見えやすさ」を示すものであり、各国の研究活動の総量を示すものではないと注意を促しています。現地語の雑誌に載った研究は含まれていない可能性があるためです。

キーワードの分析では、βグルカン、多糖類、免疫調節、抗酸化作用、抗腫瘍のしくみが中心的なテーマとして浮かび上がりました。近年の研究では、成分の構造の詳しい解析、腸内細菌叢との関わり、発酵技術、酸化ストレス、血糖を下げる作用、機能性食品への応用といった話題が増えています。研究の関心が、作用のしくみの解明や実際の利用を見据えた研究へ移りつつあることが示されました。

この研究が示すこと

この論文は、マイタケに健康効果があるかどうかを確かめた研究ではありません。マイタケの生理活性をめぐる研究がどのように積み重なってきたかを描いた「地図」です。その地図からは、日本と中国を中心とする東アジアが知識生産を主導してきたこと、多糖類と免疫を軸に始まった研究が、腸内細菌や食品への応用を含む多分野にまたがる研究へ広がってきたことが読み取れます。著者らは、ここで整理した動向や新たなテーマが、今後の基礎研究や臨床研究の方向を考える手がかりになるとしています。

著者:Christian Joseph N. Ong(Department of Biology, College of Arts and Sciences, Manila Central University)、Jamil Allen G. Fortaleza(National University)、Kevin Smith P. Cabuhat(Basic Education Department, La Consolacion University Philippines)、Glocielle F. Molabola(Molecular Science Unit Laboratory, Center for Natural Sciences and Environmental Research, De La Salle University)、Johnalie N. Cabalbag(Department of Biology, College of Science, De La Salle University)、Jose Jurel M. Nuevo(College of Medical Laboratory Sciences, Our Lady of Fatima University)、Jowi Tsidkenu Pili Cruz(Department of Biology, College of Science, De La Salle University)、Esperanza C. Cabrera(Department of Biology, College of Science, De La Salle University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Christian Joseph N. Ong, Jamil Allen G. Fortaleza, Kevin Smith P. Cabuhat, et al. Bioactivity research in Grifola frondosa: a global scientometric analysis of emerging bioactivities and translational applications. Frontiers in Fungal Biology 2026-10-07. DOI: 10.3389/ffunb.2026.1940029. 原著ライセンス:CC BY.