運動後の食事で「たんぱく質を補おう」と考えるとき、よく並ぶのがささみ・豚もも・鮭・卵・納豆といった顔ぶれだ。成分表の数字(可食部100gあたり)を並べると、きはだ24.3g、ささみ23.9g、べにざけ22.5g、豚もも21.9g——確かに「どれも似たようなもの」と感じる。だが、たんぱく質を体で使い切るまでの話になると、各食品の「脇役栄養素」の顔がまるで違う。スポーツ後の回復を支える主役はたんぱく質でも、その働きを陰で支えるのは、この脇役の差にある。
脇役栄養素を「目的別の地図」で見る
ナイアシン+B6:アミノ酸代謝の両輪
きはだ(生)は、たんぱく質24.3gというデータ上のトップに加え、ナイアシン18mg・ビタミンB6 0.64mgという数字が目を引く。ナイアシンは酸化還元酵素の補酵素として皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素で、他のビタミンB群と一緒にとると効率よく働くとされる。ビタミンB6はアミノ酸(たんぱく質)の代謝を助ける補酵素で、摂り込んだたんぱく質を体が利用できる形に変える際に欠かせない。1さく(150g)で換算するとナイアシンは約27mgにのぼり、成人(30〜49歳)の推奨量である男性16mgNE・女性12mgNEを大きく上回る水準だ。たんぱく質が多いほど、その代謝を回す補酵素も一緒に摂れる——という相性のよさが、きはだの強みといえる。
にわとり若どりのささみ(生)も、ナイアシン12mg・ビタミンB6 0.62mgと同系統の脇役を備える。たんぱく質23.9g、脂質0.8gという低脂質ぶりは運動後の胃への負担を抑えやすい。1本(約40g)あたりのたんぱく質は約9.6gと、小ぶりながら密度は高い。ビタミンB6は加熱や水に弱いとされるため、ゆですぎず蒸す調理が一つの選択肢になる。
ビタミンD:骨に関わる一枚
べにざけ(生)の最大の特徴はビタミンD 33µgだ。ビタミンDはカルシウムの吸収を促し、骨の形成に関わる栄養素で、成人(30〜49歳)の目安量である男性・女性とも9.0µgを参照すると、1切れ(約100g)だけで目安量を大幅に超える水準にある。1切れのたんぱく質は約22.5gで、運動後の一品として手ごろなボリュームだ。ただし、さけは食物アレルギーを起こしやすい食材とされているため、アレルギーのある方は留意を。
ビタミンB1:糖質エネルギーの回転役
豚もも赤肉(生)は、たんぱく質21.9gとこの中では最も少ないが、ビタミンB1 1.01mgが突出する。ビタミンB1は糖質などの代謝・エネルギー産生を助ける補酵素で、運動でグリコーゲンを消費した後に糖質から素早くエネルギーを作り直す場面で欠かせない役割を担う。薄切り1枚(約30g)あたりのたんぱく質は約6.6g。炒めものや鍋に数枚重ねると実質的な量になる。
卵:たんぱく質は控えめ、脇役の顔は別所に
鶏卵全卵(生)のたんぱく質は100gあたり12.2g、Mサイズ1個(約60g)に換算すると約7.3gと、この顔ぶれでは相対的に低い。一方でレチノール210µgを含む。レチノールはビタミンAの一形態で、視覚の維持や成長・生殖、皮膚・粘膜の健康に関わる。スポーツ回復の文脈では、単独でというより複数の食品と組み合わせ、たんぱく質の総量を底上げする「つなぎ役」に向いている。
納豆:たんぱく質より際立つ「別の顔」
糸引き納豆はたんぱく質が100gあたり16.5g、1パック(約40g)で約6.6g、1食分(約90g)でも約14.9gと、肉・魚と比べると量は控えめだ。この食品で際立つのはビタミンK 600µg(100gあたり)で、ビタミンKはカルシウムの骨への沈着に関わるとされる。激しい運動が骨への負荷を伴う競技では、たんぱく質を補う一品に骨を支える栄養素も重ねられる点が納豆の独自ポジションといえる。なお、ビタミンKは通常の食事量で過剰の心配は少ないとされるが、ワルファリン服用中の方は摂取量について医師・薬剤師への相談を。食物繊維も9.5g(100gあたり)と豊富で、成人(30〜49歳)の目標量である男性22g以上・女性18g以上を意識するなら、つけ合わせとして優秀な一品だ。
目的別の組み合わせで「地図」を活かす
数字を並べると、次のような使い分けのイメージが浮かぶ。「ナイアシン・B6でアミノ酸代謝を回したい」ならきはだかささみ。「骨のベースも一緒に」ならべにざけ。「運動で使い切った糖質エネルギーの回転を助けたい」なら豚もも。「手軽にプラス一品」なら卵や納豆、と役割が自然に分かれてくる。
もう一つ加えるなら、ビタミンB6は加熱・水に弱い性質があるとされるため、きはだやささみを食べるときは加熱しすぎない調理法——たたきや蒸し調理など——を意識すると、脇役栄養素をより活かしやすい。
1種類の食品でたんぱく質量を最大化しようとすると、脇役の偏りが生まれる。きはだ・ささみのナイアシン・B6系、べにざけのビタミンD系、豚もものB1系、卵・納豆のサポート役——これらを週単位でローテーションすると、たんぱく質の総量だけでなく「代謝を回す脇役」の網羅性が上がる。
「どれが一番か」という一列の比較より、「今日の運動に何が足りないか」で選ぶ地図のほうが、長く使い続けられる。たんぱく質が僅差だからこそ、脇役で差をつける視点が効いてくる。
量についてのひとこと
本記事で触れたナイアシン・ビタミンD・ビタミンAには、いずれも食事摂取基準で耐容上限量(過剰摂取の上限)が定められている。ただし、ここで紹介したような通常の食事の範囲で上限を超えることはまれだ。気をつけたいのは、サプリメントや強化食品でこれらを重ねて摂る場合で、その際は上限を意識したい。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準