妊娠中の貧血は、世界的に見ても公衆衛生上の重要な課題のひとつとされています。世界保健機関(WHO)は、ヘモグロビン濃度が11 g/dL未満の状態を妊娠中の貧血と定義しており、世界全体では妊婦のおよそ40%がこの状態にあるとも言われています。貧血は母体だけでなく胎児の健康にも影響を及ぼしうるとされ、栄養面からどのような要因が関わっているのかは、多くの研究者の関心を集めているテーマです。今回紹介するのは、インドネシア・バンドン地域の妊婦を対象に、食事から摂取するエネルギーや栄養素の充足度と貧血の関連を調べた研究です。

研究でわかったこと

この研究は、バンドン市およびバンドン県で妊娠後期(第3三半期)にある妊婦82名を対象とした横断研究として行われました。研究チームは、構造化インタビューと24時間思い出し法による食事調査を実施し、あわせてデジタル式ヘモグロビン測定器でヘモグロビン濃度を測定しました。得られたデータについては、カイ二乗検定やフィッシャーの正確検定といった統計手法を用いて、栄養素摂取の充足度と貧血の有無との関連が検討されています。

その結果、対象となった妊婦のうち貧血の割合は32.9%であったと報告されています。栄養素摂取との関連を見ると、エネルギー摂取が不足している場合(オッズ比3.892、95%信頼区間1.03〜14.65、p=0.035)と、鉄摂取が不足している場合(オッズ比14.213、95%信頼区間0.80〜250.96、p=0.013)に、統計的に有意な関連が認められたとされています。一方で、タンパク質、脂質、炭水化物、葉酸、ビタミンB12、ビタミンCの摂取については、貧血との間に統計的に有意な関連は見られなかったと報告されています。

これらの結果から、研究チームは、妊娠後期の貧血にはエネルギーと鉄の摂取充足度が主な関連要因として挙げられるとまとめており、妊婦一人ひとりに合わせた栄養指導や鉄剤補給プログラムといった、的を絞った栄養介入が有用ではないかと提案しています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、ある一時点でのデータをもとに関連を調べた横断研究であり、著者ら自身も、この設計では原因と結果の関係(因果関係)までは明らかにできない点を限界として挙げています。また、食事調査についても24時間思い出し法を1回のみ実施したものであり、日々の食習慣の変動などを十分に捉えきれない可能性がある点も指摘されています。さらに対象者数も82名と限られているため、著者らは、より大規模な集団を対象とした縦断研究によって、今回の結果を確認していく必要があるとしています。読者としても、この研究の結果はひとつの集団・ひとつの時点で得られた知見であり、妊婦の貧血対策について確定的な結論が示されたわけではない、という点を踏まえて読むとよさそうです。

まとめ

今回紹介した研究では、バンドン地域の妊娠後期の妊婦において、貧血の割合が32.9%であったこと、そしてエネルギーと鉄の摂取不足が貧血と有意に関連していたことが報告されました。一方でタンパク質やビタミン類など他の栄養素については明確な関連は見られなかったとされています。妊娠中の栄養と貧血の関係については、今後さらに規模の大きな研究や追跡調査を通じて理解が深まっていくことが期待されます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:妊産婦貧血に関連する栄養ギャップ:バンドンにおける妊婦のエネルギーおよび鉄摂取に関する横断研究(メディア・ギジ・ケスマス・2026年06月)