アフリカなどで伝統的に使われながらも、栄養科学の研究があまり進んでいない「未利用スパイス」と呼ばれる植物素材があります。今回紹介する研究では、そうした素材のうちDorstenia convexa(ドルステニア・コンベクサ)の根とMonodora myristica(モノドラ・ミリスティカ)の種子という2つの植物を対象に、微生物による発酵がその成分にどのような変化をもたらすのかが調べられました。
発酵は、味噌や納豆、ヨーグルトなど身近な食品づくりにも使われる技術ですが、単なる保存性の向上だけでなく、食材に含まれるフィトケミカル(植物由来の機能性成分)の組成や性質を変える可能性があるとされています。この研究は、そうした発酵の作用を科学的に確認しようとしたものです。
研究でわかったこと
研究チームは、Aspergillus oryzae(麹菌)、Lactiplantibacillus plantarum(乳酸菌の一種)、Saccharomyces cerevisiae(酵母)という3種類の微生物を用いて、それぞれの植物を発酵させました。その結果、メタノール抽出物の収量は、麹菌と乳酸菌による発酵では増加した一方、酵母による発酵では減少したと報告されています。
ポリフェノールの量を示す総フェノール含量(TPC)と総フラボノイド含量(TFC)についても変化がみられました。最適な発酵日数において、未発酵のDorstenia convexa根(TPC 24.01 mg GAE/g、TFC 8.38 mg Rutin/g、いずれも乾燥重量あたり)と比べ、麹菌・乳酸菌・酵母による発酵はそれぞれTPCを17.58%、12.59%、2.54%、TFCを20.56%、28.43%、19.20%増加させたとされています。Monodora myristica種子(未発酵時TPC 6.71 mg GAE/g、TFC 4.08 mg Rutin/g)でも同様に、TPCが31.19%、34.97%、6.62%、TFCが52.67%、58.10%、39.91%それぞれ増加したと報告されています。
さらに詳しい成分分析(LC-MS/MS)では、発酵によってメチル基を複数持つタイプのフラボノイドが増えたことや、フラボノイド配糖体が糖の部分を失ってアグリコン(非糖部分)に変化する反応、フェノール酸同士が互いに変換される反応が起きたことが示されています。揮発性成分の分析(GC-MS)でも、エステル類、アルコール類、クマリン類、テルペノイド類などに大きな変化がみられ、その内容は使用した微生物の種類や植物の種類によって異なっていたとされています。
機能面では、発酵させた抽出物は抗酸化能が有意に高まったと報告されています。一方で、大腸菌やBacillus cereusに対する抗菌活性(阻害円の大きさ)の増加はわずか(2mm以下)にとどまったとされています。また、乳酸菌による発酵は膵リパーゼ阻害活性とACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害活性を顕著に高め、酵母による発酵はα-アミラーゼ阻害活性をより強めたことが示されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、発酵という加工プロセスが植物由来の機能性成分の組成や酵素阻害活性、抗酸化能、抗菌性にどのような影響を与えうるかを、実験室レベルで検討したものです。膵リパーゼ阻害やACE阻害、α-アミラーゼ阻害といった活性は、あくまで試験管内での酵素反応に対する結果であり、これらの抽出物を摂取した際に人の健康にどのような影響が生じるかを直接示すものではない点に留意が必要です。また、本研究は特定の2種類の植物と3種類の微生物を組み合わせた条件下での結果であり、他の植物や発酵条件でも同様の結果が得られるかどうかは、この要旨だけからは判断できません。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点に注意して読む必要があります。
まとめ
今回紹介した研究では、Dorstenia convexa根とMonodora myristica種子という2つの未利用スパイスを、麹菌・乳酸菌・酵母でそれぞれ発酵させたところ、フェノール類・フラボノイド類の含量や揮発性成分の組成が変化し、抗酸化能や特定の酵素阻害活性が菌株によって異なる形で高まったことが報告されています。発酵という古くからの技術が、食材の機能性成分を変化させる有効な手段になりうることを示唆する結果といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:発酵によるフェノール化合物・揮発性化合物の富化がDorstenia convexa根とMonodora myristica種子の植物化学組成および抗酸化活性に及ぼす影響(ジャーナル・オブ・アグリカルチャー・アンド・フード・リサーチ・2026年07月)