日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Frontiers in Microbiology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:培養検査では見逃される菌がいるのではないか

カンピロバクターは、加熱が不十分な鶏肉などを通じて食中毒を起こす代表的な細菌です。論文によると、日本では細菌性食中毒の発生件数で最も多く報告されており、2025年には220件、1,226人の患者が報告されています。市販の鶏肉からこの菌がたびたび見つかることも、これまでの調査で示されてきました。

食品中の細菌は通常、寒天培地などで菌を増やして確かめる「培養法」で調べます。しかし、カンピロバクターは冷蔵や空気中の酸素といったストレスを受けると、「生きているが培養できない状態(VBNC)」になることが知られています。この状態の菌は培地上で増えないため、培養法では見逃され、実際の汚染が少なく見積もられるおそれがあります。

一方、菌の遺伝子(DNA)を増やして検出するPCR法は培養に頼りませんが、死んだ菌のDNAまで拾ってしまうという弱点があります。そこで研究チームは、死んだ菌などに由来する信号を抑える処理を組み合わせた遺伝子検査を使い、市販鶏肉に含まれる「膜が保たれた(生きている可能性が高い)」カンピロバクターが一年を通じてどの程度見つかるかを、従来の培養法と比べて調べました。

何を調べたか:1年間、毎月10パックの鶏肉を5通りの方法で検査

研究チームは2025年2月から2026年1月まで、岐阜県内の3つのスーパーマーケットで鶏もも肉(骨付きの脚)を毎月10パック、合計120パック購入しました。肉を液体ですすいで菌を集め、その液を分けて5通りの方法で並行して検査しました。

培養法は2種類で、培地に直接まいて菌の数を数える方法と、日本の標準的な手順に沿って一度菌を増やしてから有無を確かめる「増菌培養」です。遺伝子検査は「デジタルPCR」という方法を使いました。これは検査液を非常に多くの小さな区画に分け、目的のDNAが入った区画の数から量を直接見積もる手法で、少ない菌でも量を推定しやすいとされています。

遺伝子検査はさらに3通りに分けました。何も処理しないもの、PMAという試薬で処理したもの、PMAに「エンハンサー」という補助試薬を加えたものです。PMAは膜が壊れた菌や死んだ菌の中に入り込み、そのDNAが検出されないようにします。エンハンサーは菌の膜を通りやすくしてこの働きを強めるもので、研究チームの以前の研究では、VBNC状態の菌の検出も減らすことが示されています。つまり、処理なし、PMAのみ、PMAとエンハンサーの順に、より厳しい条件で「膜が保たれた菌」だけを数えようとする設計です。

主な結果:遺伝子検査では培養で見つからない菌も検出、夏に多い傾向

120検体のうち、カンピロバクターが見つかった割合は、直接培養で43.3%(52検体)、増菌培養で46.7%(56検体)でした。遺伝子検査では、処理なしのデジタルPCRが72.5%(87検体)と最も高く、PMA処理ありでは55.0%(66検体)、PMAとエンハンサーを併用すると33.3%(40検体)でした。PMA処理によって陽性率は統計的にはっきりと下がり、エンハンサーを加えるとさらに下がりました。

PMA処理ありの遺伝子検査と培養法を検体ごとに突き合わせると、遺伝子検査では陽性なのに直接培養では陰性だった検体が31、その逆が17ありました。増菌培養との比較では、それぞれ27と17でした。全体の陽性率は遺伝子検査の方が高かったものの、この検体ごとの比較では統計的に意味のある差とはいえませんでした。著者らは、二つの方法の結果が個々の検体レベルではかなり食い違っていると述べています。

菌量の推定値(肉25グラムあたりの推定菌数の中央値)も、処理なしで54.3、PMA処理ありで17.7、エンハンサー併用で0と、処理を厳しくするほど少なくなりました。季節別に見ると、培養法・遺伝子検査のどちらでも7〜9月を中心とする夏に検出率が高く、早春に低い傾向がみられました。

この研究が示すこと

著者らは、処理なしの遺伝子検査で検出される信号の少なからぬ部分が、死んだ菌や膜の傷んだ菌に由来している可能性があると考えています。一方で、PMA処理後も多くの検体で信号が残り、複数の月で「遺伝子検査では陽性、培養では陰性」の検体が見つかったことから、市販の鶏肉には培養では捉えきれない、膜が保たれたカンピロバクターが含まれている可能性があると論じています。エンハンサーの有無で結果が変わったことは、鶏肉中の菌がさまざまな状態のものの集まりであることを示唆するとしています。

ただし著者らは、これらの菌がVBNC状態であることを直接確かめたわけではなく、確定したVBNC菌とみなすべきではないと明記しています。また、調査地域が限られていること、菌数は遺伝子のコピー数から仮定を置いて換算した推定値であること、ごく少量の陽性結果には測定や採取のばらつきが含まれうることも限界として挙げています。

こうした限界を踏まえつつも、研究チームは、PMAを組み合わせたデジタルPCRが鶏肉中の生きている可能性の高いカンピロバクターを評価する有用な手段になりうると結論づけています。培養法だけでは見えにくい汚染の実態を、別の角度から捉える手がかりを示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Ayaka Okada(Education and Research Center for Food Animal Health, Gifu University (GeFAH); Joint Graduate School of Veterinary Sciences, Gifu University; Laboratory of Food and Environmental Hygiene, Joint Department of Veterinary Medicine, Faculty of Applied Biological Sciences, Gifu University)、Aimi Fuyuki(Joint Graduate School of Veterinary Sciences, Gifu University; Laboratory of Veterinary Anatomy, Joint Department of Veterinary Medicine, Faculty of Applied Biological Sciences, Gifu University)、Michihiro Shimizu(Laboratory of Food and Environmental Hygiene, Joint Department of Veterinary Medicine, Faculty of Applied Biological Sciences, Gifu University)、Md. Jannat Hossain(Department of Microbiology and Public Health, Faculty of Veterinary, Animal and Biomedical Sciences, Khulna Agricultural University; Joint Graduate School of Veterinary Sciences, Gifu University; Laboratory of Food and Environmental Hygiene, Joint Department of Veterinary Medicine, Faculty of Applied Biological Sciences, Gifu University)、Yasuo Inoshima(Education and Research Center for Food Animal Health, Gifu University (GeFAH); Joint Graduate School of Veterinary Sciences, Gifu University; Laboratory of Food and Environmental Hygiene, Joint Department of Veterinary Medicine, Faculty of Applied Biological Sciences, Gifu University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ayaka Okada, Aimi Fuyuki, Michihiro Shimizu, et al. Prevalence and quantification of viable Campylobacter species in retail chicken: a comparative study using viability digital polymerase chain reaction and conventional culture methods. Frontiers in Microbiology 2026-10-20. DOI: 10.3389/fmicb.2026.1995295. 原著ライセンス:CC BY.