著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Frontiers in Digital Health

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

嚥下障害とは、あご・唇・舌・のど・食道などの構造や働きに問題が生じ、食べ物を口から胃へ安全に送れなくなる状態です。脳や神経の病気、筋肉の病気、口やのどの病変などさまざまな原因で起こります。栄養状態や生活の質に影響するほか、食べ物などが気管に入る「誤嚥」による肺炎の危険も高めます。そのため、食べ物の硬さの調整、食べるときの姿勢、飲み込み方の工夫などを含む標準的な食事指導は、嚥下障害の管理の中心とされています。

一方で、専門的なリハビリテーションを受けられる機会は限られており、患者や介護者がSNSの短編動画から食事の工夫を学ぶ場面が増えています。動画は介助の手順を目で見て理解しやすい反面、専門的な訓練を受けていない人が投稿した不正確な情報が混ざることもあり、一般の視聴者には見分けが難しいという問題があります。

研究チームは、中国の主要な短編動画プラットフォーム上にある嚥下障害の食事指導動画について、全体的な質、情報源の透明性、情報の信頼性、そして取り上げられている内容の範囲を体系的に評価することを目的としました。

どのように調べたか

対象としたのは、小紅書(Rednote)、抖音(Douyin)、ビリビリ(Bilibili)、快手(Kwai)の4つのプラットフォームです。2025年9月に、視聴履歴などの影響を減らすため新しく作ったアカウントを使い、「嚥下障害」や「嚥下」と「食事介助」「食事」「栄養」を組み合わせた語で検索しました。最初に集めた800本から、重複、テーマと無関係なもの、画像や音声が不鮮明なもの、商業目的のもの、投稿者の身元が確認できないものなどを除き、278本を分析対象としました。

内容の範囲を見るため、著者らは国内外の臨床ガイドラインや専門家の合意文書をもとに、食事指導を10の領域に整理しました。食事環境、食事の方法、食器、食べ物の調整、飲み込むときの姿勢、飲み込み方の技法、食事中の危険管理、口腔ケア、栄養管理、服薬管理です。各動画がそれぞれの領域に触れているかどうかを数えました。この指標は内容の幅を示すもので、質の良し悪しを判定するものではないと論文は説明しています。

あわせて、情報源や著者の資格、日付、利害関係の開示といった透明性を測る「JAMA基準」(最大4点)、内容の信頼性を測る「改訂版DISCERN」(mDISCERN、最大5点)、分かりやすさや構成などを含む全体的な質を測る「グローバル品質スコア(GQS)」(最大5点)という3つの評価尺度を用いました。評価は嚥下障害のリハビリテーションを専門とする2名の療法士が独立して行い、意見が分かれた場合は第三者を交えて判断しました。

動画は投稿者の立場によって7つに分類されました。医療従事者側はリハビリテーション科医、リハビリテーション療法士、リハビリテーション看護師、リハビリ科以外の関連診療科の医療従事者の4区分、医療従事者以外は非営利団体、個人の科学情報発信者、嚥下障害のある本人の3区分です。278本のうち64%が医療従事者による投稿でした。

主な結果

全体として、動画の質は低い傾向にあると報告されています。GQSの中央値は5点満点中2点で、JAMAとmDISCERNの中央値はいずれも3点でした。

投稿者の立場による違いは、評価の観点によって異なりました。透明性(JAMA)と信頼性(mDISCERN)では、医療従事者の動画が医療従事者以外の動画より有意に高い点数でした。一方、全体的な質(GQS)では両者の差は統計的に有意ではありませんでした。7区分で比べると、GQSではリハビリテーション看護師が最も高く、mDISCERNでは関連診療科の医療従事者が最も高い結果でした。mDISCERNで最も低かったのは個人の科学情報発信者で、JAMAでは嚥下障害のある本人による動画が最も低い点数でした。

プラットフォーム間の差も観点によって異なりました。GQSの差は小さく、有意差が見られたのはビリビリと快手の間だけでした。JAMAでは小紅書、抖音、ビリビリがいずれも快手を上回りました。差が最も大きかったのはmDISCERNで、抖音が他の3つのプラットフォームを有意に上回りました。

内容の範囲では、食べ物の調整に触れた動画が77%、飲み込むときの姿勢の調整が52%と比較的多かった一方、服薬管理は4%、口腔ケアは17%、栄養管理は21%にとどまりました。食事環境、危険管理、口腔ケア、栄養管理、服薬管理の5領域は、いずれも7割以上の動画で触れられていませんでした。多くの動画は個別の知識を断片的に扱っており、体系的な指導は少なかったと著者らは述べています。投稿者別では、リハビリテーション看護師の動画が他の多くの区分より有意に幅広い領域を扱っていました。

研究が示すこと

著者らは、中国の主要な短編動画プラットフォームで公開されている嚥下障害の食事指導動画には、全体的な質の面で改善の余地があると結論づけています。情報の信頼性は、発信者の専門的背景とプラットフォームの環境の両方に左右されていました。また、服薬や栄養、口腔ケアといった重要な領域が手薄であることから、現在の動画だけでは、嚥下障害のある人が安全に判断し、標準的な方法で自己管理するための支えとしては十分でないと論文は指摘しています。

手軽に見られる動画が増えても、その内容の幅や信頼性には大きなばらつきがあることを、この研究は具体的な数値で示しました。研究チームは、専門家の関与やプラットフォーム側の取り組み、多面的な質の評価を組み合わせて、健康情報の発信環境を整える必要性を訴えています。

著者:Jiaying Chen(Department of Rehabilitation Medicine, The First Affiliated Hospital of Naval Medical University, Shanghai, China)、Ting Xiong(Department of Rehabilitation Medicine, The First Affiliated Hospital of Naval Medical University, Shanghai, China)、Ying Li(Department of Rehabilitation Medicine, The First Affiliated Hospital of Naval Medical University, Shanghai, China)、Yue Wang(Child Health and Rehabilitation Clinic, Department of Pediatrics, Qilu Hospital of Shandong University)、Chen Yang(Department of Rehabilitation Medicine, Shuguang Hospital Affiliated to Shanghai University of Traditional Chinese Medicine)、Jinghui Huang(Department of Rehabilitation Medicine, The First Affiliated Hospital of Naval Medical University, Shanghai, China)、Fanfu Fang(Department of Rehabilitation Medicine, The First Affiliated Hospital of Naval Medical University, Shanghai, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jiaying Chen, Ting Xiong, Ying Li, et al. Quality, source transparency, information reliability, and domain coverage of short video-based information on feeding guidance for people with dysphagia: a cross-sectional study on 4 major Chinese social media platforms. Frontiers in Digital Health 2026-10-14. DOI: 10.3389/fdgth.2026.1919212. 原著ライセンス:CC BY.