ビタミンEには4つの兄弟がいます。α・β・γ・δ——いずれも「トコフェロール」と総称される脂溶性の成分で、体内では酸化されやすい脂質の酸化を抑え、細胞膜の安定に関わるとされています。食事摂取基準でビタミンEの指標として使われるのは主にα-トコフェロールですが、δ(デルタ)-トコフェロールは食品成分表に独立した数値として収載されており、日本人の食事摂取基準には定量的な基準は設定されていません。なお、ここで触れる栄養素の働きは一般的な説明であり、特定の食品の効果を示すものではありません。
では、このδ-トコフェロールはどんな食品に多いのか。日本食品標準成分表(八訂)のデータを引いてみると、顔ぶれが少し不思議です。油脂類と豆類という、ふだんは別の棚に並ぶカテゴリーが混在して上位を占めている。上位食品の多くは大豆またはその加工品・大豆油を含む油に連なりますが、例外もあり、データの奥行きが見えてきます。
上位を読み解く——油も豆も、大豆系が多いが例外もある
最も多いのは大豆油で、可食部100gあたり21mgです。続く2位タイには5食品が並びます。凍り豆腐(乾)、いり大豆(青大豆)、あずき(全粒・乾)、いり大豆(黒大豆)、そして調合油——いずれも11mgで横並びです。
「油と豆、なぜ同じ土俵に?」——その答えの中心が、大豆です。大豆油はその名のとおり大豆から搾った油です。凍り豆腐は豆腐(大豆製品)を凍らせて乾燥させたもの。いり大豆の青大豆・黒大豆はどちらも大豆の仲間です。調合油は複数の植物油をブレンドしたもので、δ-トコフェロールを11mg含んでいます。あずきだけは大豆とは別のマメ科植物(ササゲ属)ですが、同じく豆類として上位に名を連ねています。
上位6食品のうち5食品は「大豆またはその加工品・大豆油を含む油」に連なりますが、あずきはそれとは異なる背景を持ちます。
なぜ大豆なのか——脂肪酸との同居という構造
もう一歩掘り下げると、面白い共存構造が見えてきます。δ-トコフェロールが上位に並ぶ食品の多く——とりわけ油脂類と大豆製品——には、同時に酸化されやすい多価不飽和脂肪酸が豊富に含まれています。
大豆油100gには、リノール酸(n-6系の必須脂肪酸)が50,000mg、α-リノレン酸(n-3系の必須脂肪酸)が6,100mgも含まれています。凍り豆腐(乾)にもリノール酸16,000mg・α-リノレン酸2,500mg、調合油にはリノール酸34,000mg・α-リノレン酸6,800mg。いり大豆各種にもα-リノレン酸が1,700〜1,800mg含まれています。リノール酸・α-リノレン酸はいずれも体内で合成できない必須脂肪酸で、多価不飽和脂肪酸と呼ばれる仲間です。
ビタミンEには「酸化されやすい不飽和脂肪酸の酸化を抑える役割があり、料理に使う植物油に多く含まれる」とされています。ただし、あずきは脂質が100gあたり2.0gと少なく、多価不飽和脂肪酸もごくわずかですが、それでもδ-トコフェロールは11mgと上位に並びます。「脂質が多いからEも多い」という見方だけでは割り切れない食品があることも、データは正直に示しています。一方、大豆由来の食品や油脂類では、多価不飽和脂肪酸とδ-トコフェロールが共存している傾向が見られます。
各食品を食卓の文脈で見る
大豆油は小さじ1杯(約4.6g)で約1mgのδ-トコフェロールを摂れます(21mg×4.6÷100)。炒め物や揚げ物に日常的に使う油として、密度の高さが光ります。調合油も大さじ1(約13.5g)で約1.5mgと同水準です(11mg×13.5÷100)。
凍り豆腐(乾)は1個約20gが目安で、そこに含まれるδ-トコフェロールは約2.2mg(11mg×20÷100)。水で戻して煮物や炒め物に使うと、豆腐よりも凝縮された成分を取り込めます。いり大豆(青大豆・黒大豆)はそのままつまむだけで摂れる手軽さが特徴で、黒大豆は皮にアントシアニンなどのポリフェノールを含み、黒い表皮を持ちます。あずきは大さじ1(約12.3g)で約1.4mgが目安です(11mg×12.3÷100)。小豆の種類によっては、大粒で煮ても皮が破れにくい大納言が菓子によく使われますが、δ-トコフェロールの値はあずき全体として収載されています。
なお、これらの食品を一食で大量に食べることは少ないため、δ-トコフェロール単独で過剰摂取を心配する状況は通常の食事では考えにくいですが、油は使いすぎにならない量を意識することが自然です。
「豆と油を選ぶ」という視点
δ-トコフェロールの上位一覧を眺めると、「油を選ぶ」「豆を食べる」という日常の行動が、多くの場合は大豆という素材に帰着していることに気づきます。炒め物に大豆油を使い、副菜に凍り豆腐を加え、間食にいり大豆をつまむ——それは知らず知らずのうちに大豆由来の食品を重ねている食卓の姿です。
あずきや黒大豆のような豆類も同じ文脈に入ることを考えると、豆料理や豆を使った油脂を意識的に選ぶ習慣は、δ-トコフェロールという成分の観点からも「豆が豊かな食卓」を支えています。食品成分表のデータが今後さらに充実し、まだ測定値のない食品に数値が加わったとき、上位の顔ぶれがどう広がるか——それもまた、データを読む楽しみの一つです。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。