ヨーグルトは世界各地で古くから親しまれてきた発酵乳製品ですが、その作り方は地域によってさまざまです。エチオピア・シダマ地域では、小規模な酪農家が「エルゴ」と呼ばれる伝統的なヨーグルトを作っていますが、発酵にかかる時間や出来上がりの品質が安定しないという課題があるといいます。今回紹介する研究は、この伝統的な発酵方法と、あらかじめ用意された「スターターカルチャー」(発酵を助ける特定の乳酸菌を含む種菌)を使う方法を比較し、発酵時間や品質にどのような違いが出るかを調べたものです。

研究チームは、地域の協同組合から集めた同じ生乳を使い、4つの方法でヨーグルトを作りました。具体的には、何も加えずに自然に発酵させる方法(SP)、前回作ったヨーグルトの一部を種として使う「継代発酵」の方法(BS)、そして単一の菌株からなるスターターカルチャー(Yoba、ラクチカゼイバチルス・ラムノーサス菌)と、複数の菌株を組み合わせたスターターカルチャー(YF904、ストレプトコッカス・サーモフィルス菌とラクトバチルス・デルブルッキー・ブルガリクス亜種)を使う2つの方法です。できあがったヨーグルトについては、pH・滴定酸度・脂肪・タンパク質・全固形分といった理化学的な性質を分析するとともに、発酵にかかった時間を記録しました。さらに、30人の消費者パネリストが5段階の評価スケールを用いて、風味や食感、色、総合的な好ましさなどを官能評価しています。

研究でわかったこと

結果として、スターターカルチャーを使ったヨーグルトはいずれも脂肪含有量が3.5%と、他の方法に比べて低くなったと報告されています。また、タンパク質含有量については、Yoba(単一株)を使ったプロバイオティクスヨーグルトのみが4.5%と高い値を示したとされています。

発酵時間に関しては、スターターカルチャーを用いた方法では11〜14時間と、自然発酵や継代発酵の方法(18〜24時間)に比べて明らかに短かったことが示されました。これは、スターターカルチャーの利用が発酵の効率化につながる可能性を示す結果といえそうです。

官能評価では、Yobaを使ったプロバイオティクスヨーグルトが最も好まれ、風味・食感・色・総合的な好ましさのいずれについても、0.80以上という高い評価指数が得られたとされています。次いでYF904を使ったヨーグルトが好まれ、伝統的な方法で発酵させたヨーグルトの評価はそれより低かったと報告されています。これらの結果から、研究チームは、スターターカルチャーを用いたヨーグルト生産が発酵の効率、栄養組成、官能的な品質の向上につながることを示していると述べ、ヨーグルトの品質を安定させるためにスターターカルチャーの導入を推奨するとともに、他の種類のカルチャーの検討や、現地の発酵菌そのものの特徴を明らかにする今後の研究の必要性にも言及しています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、エチオピア・シダマ地域という特定の地域で、決められた条件のもとで行われた一つの研究です。使用された生乳や菌株、評価した人数なども限られた範囲のものであり、ここで得られた結果がすべての地域や条件に当てはまるとは限りません。また、官能評価は30人のパネリストによるものであり、味や食感の好みには個人差があることにも留意が必要です。スターターカルチャーの利用がヨーグルトの品質改善に役立つ可能性を示唆する結果ではありますが、これによって特定の健康効果が得られると断定するものではなく、あくまで発酵時間や理化学的・官能的な特性についての知見であるという点を踏まえて読むとよいでしょう。

まとめ

今回の研究では、エチオピアの伝統的ヨーグルト「エルゴ」の製造において、スターターカルチャーを使うことで発酵時間が短縮され、脂肪やタンパク質といった成分、さらには風味や食感といった官能的な評価にも違いが生じることが報告されました。伝統的な食文化と現代的な発酵技術を組み合わせることで、地域の食品づくりがどのように変わりうるのかを考えるうえで、興味深い一例といえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:エチオピア・シダマ地域における伝統的手法とスターターカルチャーを用いたヨーグルトの発酵時間と品質特性(ディスカバー・フード・2026年07月)