ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料となるミネラルで、昆布やわかめなど海藻類を日常的に食べる日本は、もともとヨウ素摂取量が多い国として知られています。実際、多くの国では食塩にヨウ素を添加する「ヨウ素強化」を行っていますが、日本ではその必要がないほどヨウ素が充足していると考えられてきました。しかし、全国規模でヨウ素の摂取状況と甲状腺の状態を詳しく調べたデータはこれまで十分ではありませんでした。今回紹介する研究は、2016年から2023年という長期間にわたり、日本各地の健康な成人を対象にヨウ素栄養状態と甲状腺機能を調べた全国調査です。
研究でわかったこと
この研究では、全国20地域から2,845人の成人(平均年齢45.6歳)が参加し、尿中のヨウ素濃度、血清や毛髪中のヨウ素濃度、甲状腺ホルモン(TSH、FT4、FT3)の値、甲状腺の自己抗体の有無、超音波検査による甲状腺の大きさ、食事調査によるヨウ素摂取量、体格などが調べられました。
その結果、尿中ヨウ素濃度の中央値は295.0μg/Lで、世界保健機関(WHO)が示す適正範囲内に収まっていました。ただし、地域による差は大きく、種子島が169μg/Lと最も低かったのに対し、福井は943μg/Lと最も高く、5倍以上の開きが見られたと報告されています。
甲状腺機能についても地域差が見られました。TSH(甲状腺刺激ホルモン)の中央値が最も高くFT4が最も低かったのは石川県(北陸)で、逆にTSHが最も低かったのは北海道の礼文島でした。ただし、いずれの地域でもTSH・FT4・FT3の中央値は基準範囲内にとどまっていたとされています。また、甲状腺の自己抗体が陽性だった人の割合は12.6%でした。統計的な分析では、尿中ヨウ素濃度とTSHの間にのみ、有意な正の相関が見られたと報告されています。
食事調査からは、この研究に参加した人々の平均ヨウ素摂取量は1日あたり約400μgと推定され、他の国・民族の平均的な摂取量より多く、地域によっては非常に高い摂取量となっていることが示唆されました。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この調査は、日本の成人におけるヨウ素栄養状態と甲状腺機能の実態を、全国規模で横断的に捉えたものです。地域差が大きいことが示された点は興味深い知見ですが、これは特定の時点における状態を調べた観察研究であり、ヨウ素摂取量の違いが甲状腺機能や自己抗体の陽性率にどのような影響を与えるかという因果関係を証明するものではありません。論文の著者らも、今後さらに大規模な疫学調査が必要だと述べています。この研究の結果をもって、特定の食品やヨウ素摂取量が健康に良い・悪いと結論づけることはできない点に注意が必要です。
まとめ
今回の全国調査では、日本人成人のヨウ素摂取状況はWHOの適正範囲内にあるものの、地域によって尿中ヨウ素濃度や甲状腺機能の指標に大きな差があることが示されました。ヨウ素と甲状腺の関係を理解するうえで貴重なデータですが、一つの研究であり結論が確定したわけではなく、今後のさらなる調査の積み重ねが期待されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:日本人成人におけるヨウ素栄養状態と甲状腺機能に関する全国調査(エンドクリン・ジャーナル・2026年07月)