6月中旬、食卓にそっと添えられる薬味がある。冷奴の上、刺し身の脇、素麺の小皿。生のしその葉は1枚わずか約1g、存在感は控えめに見える。ところが今ちょうど旬を迎えた愛知産のしそを手に取ると、葉先まで鮮やかな緑でピンと張り、香りが指先にまとわりつくほど強い。この香りの正体はペリルアルデヒドという成分で、しその清涼感を生み出している。

「脇役」が持っていた数字

薬味として少量しか使わないからこそ、栄養の話を持ち出されても実感しにくいかもしれない。それでも一度、可食部100gあたりの数字を見てほしい。β-カロテンが11000µg、ビタミンKが690µg。どちらも野菜の中で際立って高い水準にある。

β-カロテンは脂溶性の色素成分で、にんじんのオレンジ色でもおなじみの仲間。体内でビタミンAとして働く(プロビタミンA)ため、緑黄色野菜の分類に入るしそは、葉の濃い緑そのままに、この成分を豊富に抱えている。なお食品由来のβ-カロテンは過剰症のリスクは低いとされているが、ビタミンAを含むサプリメントを併用する場合は摂り過ぎに注意が必要なことも覚えておきたい。1枚1gのしそから摂れる量はほんのわずかで、もちろん1枚で何かが劇的に変わるわけではない。大切なのは、毎日の薬味として習慣的に取り入れることにある。

もう一つの看板成分、ビタミンK

ビタミンKは血液を固める凝固因子の生成に使われ、止血に関わる脂溶性ビタミンとされる。さらに骨の形成にも関わり、骨にカルシウムが沈着するのを助けるとされる。しそ100gあたり690µgという値は、日常的な野菜のなかでもひときわ高い。

一つだけ注意を添えておきたい。血液を固まりにくくするワーファリン(抗凝固薬)を服用している方は、ビタミンKが薬の効果に影響するとされるため、主治医に相談することをおすすめしたい。

どちらも脂溶性であるため、油と組み合わせると体内への吸収がよくなるとされる。しそをオリーブ油や胡麻油と合わせる料理には、理にかなった一面がある。

旬の6〜7月、今がいちばん香り高い

しその旬は6〜7月ごろ。愛知・愛媛・群馬などが主な産地で、なかでも愛知は国内有数の産地として知られる。この時期は葉が厚みをもってたっぷり育ち、香りが最も充実する。選ぶときは葉先までピンとして、色が鮮やかで変色のないものを。強い香りが立つものほど、しその真骨頂を楽しめる。

香りを活かす、今日の一皿

せっかくの旬のしそなら、刻んで熱に当てるよりも、生のまま香りごと食べたい。冷奴に大葉を重ねて醤油をひと垂らしするだけでも十分だし、素麺のつけ汁に千切りを浮かせれば夏らしい一杯になる。たたきにした鶏肉や白身魚の刺し身に巻いて食べる使い方も、ペリルアルデヒドの香りがいきて食卓を引き締める。なお刺し身など生の魚介類については、妊婦・高齢者・免疫が低下している方はリステリアやアニサキス等の食中毒リスクに留意が必要です。ごま油と塩でさっと和えた「しそのナムル」も、油との組み合わせとして手軽でおいしい。

薬味の1枚は、料理を整える名脇役でありながら、栄養の密度という点では主役級の顔をもっている。6月の食卓、もう一枚だけ加えてみたくなるのではないだろうか。

栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。