この研究は、インドネシアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Jurnal AGRISEP Kajian Masalah Sosial Ekonomi Pertanian dan Agribisnis

ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

インドネシアでは米が主食ですが、農地の転用による作付面積の減少や気候の変動により、米の生産が圧迫されています。政府は2007年から優良種子の補助金を配布し、2017年には無償配布にも広げるなど、収量の向上を目指してきました。その柱の一つがハイブリッド品種です。ハイブリッド品種とは、異なる親系統を掛け合わせて作る一代限りの品種で、収量が多いと期待されています。これに対し、農家が従来から使ってきた品種はインブレッド品種と呼ばれます。

ただし、補助金とハイブリッド品種の普及が実際に生産性を高めたのかは、インドネシアでは十分に検証されていませんでした。これまでの研究の多くは限られた地域の調査に基づいており、全国規模で因果関係を確かめた分析はほとんどありませんでした。インドネシア大学の研究チームは、全国を代表する調査データを使い、ハイブリッド品種の導入が農家の米の生産性に与える影響を推定しました。

何を調べたか

著者らは、インドネシア中央統計局が2017年に実施した農業経営費調査のデータを用いました。この調査は34州・503の県と市を対象としています。分析対象は稲作を営む15万2886の農家世帯です。生産性は、1ヘクタール当たりの乾燥もみの収穫量で測りました。

分析で注意が必要なのは、ハイブリッド品種を選ぶ農家がもともと特別な条件を備えている可能性です。たとえば灌漑や農業機械を使える農家ほど、ハイブリッド品種を選びやすく、収量も高くなりやすいと考えられます。このため、単純に二つのグループの収量を比べると、品種の効果と農家の条件の違いを区別できません。こうした偏りは選択バイアスと呼ばれます。研究チームは、この偏りを補正する統計手法として、ヘックマンの二段階推定と内生的スイッチング回帰を用いました。後者は、導入した農家と導入しなかった農家を別々にモデル化し、導入農家が従来品種を使い続けた場合の収量を推定して比較する方法です。

主な結果

サンプルのうち、ハイブリッド品種を使っていた農家は12.7%でした。単純な平均で比べると、ハイブリッド品種を使う農家の生産性はインブレッド品種を使う農家より高く、論文はその差を約31%と報告しています。一方で、ハイブリッド品種を使う農家は条件の面でも違っていました。肥料を使う割合は93.7%で、インブレッド品種の農家の83.8%を上回りました。農業機械を持つ割合も74.6%で、インブレッド品種の農家の59.1%より高い結果でした。灌漑の利用、水田での栽培、農民グループへの参加も、ハイブリッド品種の農家の方が多く見られました。ただし、耕作面積の平均は0.437ヘクタールで、インブレッド品種の農家の0.663ヘクタールより小さいものでした。著者らは、ハイブリッド品種が無作為に広がったのではなく、投入資材や情報を得やすい農家が選んで導入していると指摘しています。

ヘックマンの二段階推定では、モデルによって結果が変わりました。耕作面積、教育年数、年齢、世帯人数、性別といった農家の基本的な属性は考慮しつつ、農業条件や制度的な要因は含めない基本モデルでは、ハイブリッド種子の使用量と生産性の間に正の関連が見られました。しかし、肥料、農業機械、栽培時期、水田かどうかといった農業条件を加えると、関連は負になりました。さらに、州ごとの違いを考慮すると、統計的に有意ではなくなりました。

内生的スイッチング回帰では、ハイブリッド品種を導入した農家の生産性は、従来品種を使い続けた場合より低いという推定になりました。導入農家への平均的な効果を示す値は、対数で測った生産性でマイナス0.443でした。また、従来品種の農家がハイブリッド品種に切り替えた場合の推定値もマイナス0.332となり、こちらも生産性が下がる方向を示しました。さらに、自然災害による生産性の低下は、インブレッド品種の農家よりハイブリッド品種の農家で大きく推定されました。著者らは、ハイブリッド品種が環境の不安定さに敏感である可能性を示唆しています。一方、ハイブリッド品種を導入した農家では、農業機械、灌漑、肥料などの投入による生産性への寄与が大きい傾向も見られました。

この研究が示すこと

この研究は、ハイブリッド品種を使えば米の収量が上がるという一般的な想定に疑問を投げかけています。著者らは、ハイブリッド品種の効果は種子だけでは決まらないと結論づけています。灌漑、農業機械、肥料、技術指導といった支えがそろってはじめて生かされる技術であり、そうした条件が欠けると、かえって生産性が下がりうると論じています。そのうえで研究チームは、種子の配布に偏らず、補助金の対象を絞り込むことや、農業普及サービス、農村のインフラを組み合わせて支援する必要があると述べています。

著者:Rizki Dito Subekti(Department of Economics, Faculty of Economics and Business, University of Indonesia, Depok, Indonesia)、Riatu Mariatul Qibthiyyah(Department of Economics, Faculty of Economics and Business, University of Indonesia, Depok, Indonesia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rizki Dito Subekti, Riatu Mariatul Qibthiyyah A Socio-Economic Analysis of Adoption of Hybrid Varieties on Rice Productivity in Indonesia. Jurnal AGRISEP Kajian Masalah Sosial Ekonomi Pertanian dan Agribisnis 2026-09-30. DOI: 10.31186/jagrisep.25.2.611-630. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.

本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。