スポンジケーキを膨らませる白い粉——ベーキングパウダーがリン含有量のデータで首位に立ちます。「なぜこの食品が?」という驚きを入口に、日本食品標準成分表(八訂)の数値を読み解いてみましょう。

リンは体内に最も多く存在するミネラルの一つです。骨や歯を形づくる主要な構成成分であるほか、細胞膜を形成するリン脂質、遺伝情報を担うDNA・RNA、そして細胞がエネルギーを蓄えて使い回すATP(エネルギーの運び手として機能する分子)にも欠かせません。日本人の食事摂取基準では女性(30〜49歳)の1日の目安量は800mg、過剰摂取のリスクを踏まえた耐容上限量は3000mg/日です。

上位5食品を読み解く

第1位:ベーキングパウダー(100gあたり3700mg)

ベーキングパウダーの100gあたりリンは3700mg、目安量の462%です。注意したいのは、この値が耐容上限量3000mg/日を約1.2倍上回る水準にあることです(100gあたりの値であり、一度に食べる量ではありません)。膨らし粉の酸性剤としてリン酸塩系の化合物が配合されることが多く、それが高い密度の背景にあります。製菓・製パンで1回に使う量はごく数g程度のため、実際に摂取するリンはわずかです。

第2位:とびうお 焼き干し(100gあたり2300mg)

とびうお 焼き干しは100gあたり2300mg、目安量の288%。九州・長崎ではとびうおを「あご」と呼び、この焼き干しはあごだしの原料として知られます。焼いて干す工程で水分が大幅に減り、リンをはじめとするミネラルが凝縮された結果の高値です。カルシウムも100gあたり3200mgと豊富ですが、これは1日の耐容上限量2500mg/日を約1.3倍上回る水準(100gあたりの値)。だし素材として少量で使うのが一般的な食材です。

第3位:かたくちいわし 田作り(100gあたり2300mg・第2位と同値)

かたくちいわし 田作り(ごまめとも呼ばれます)のリンも100gあたり2300mg、目安量の288%で第2位と同値です。かたくちいわしの稚魚を素干しにした乾物で、おせち料理でもおなじみの一品。ビタミンB12の密度が際立ち、100gあたり65µgは目安量4µg/日の約1625%に相当します。ビタミンB12には耐容上限量がなく過剰分は排泄されるため、この高い割合は過剰摂取の心配を示すものではありません。なお一度に食べる量は少量が一般的で、実際の摂取量は100gの数値より大幅に少なくなります。

第4位:米ぬか(100gあたり2000mg)

米ぬかは100gあたり2000mg、目安量の250%。玄米を白米に精製する際に取り除かれる外皮・胚芽の部分で、ぬか漬けの床(ぬか床)としておなじみのほか、近年は「食べる米ぬか」としてスープやヨーグルトに混ぜるなど健康食品・スーパーフードとしても広く流通し、直接摂取されています。また、マンガンは100gあたり15mgで耐容上限量11mg/日を約1.4倍上回る値(100gあたり)であることも付記しておきます。ビタミンB1やビタミンB6の密度も高い食品です。

第5位:かたくちいわし 煮干し(100gあたり1500mg)

かたくちいわし 煮干し(関西・九州ではいりこの名でも親しまれます)は100gあたり1500mg、目安量の188%。上位4品に比べると値は低くなりますが、だしを取るほか素焼きにしておやつとして食べるなど、日常的に口にする機会がある身近な乾物です。カルシウム2200mg、ビタミンB12は41µg(目安量の1025%)と複数の栄養素が高密度に含まれています。

データが語る「乾燥」と「凝縮」の力

2〜5位を見渡すと、乾燥・素干し・焼き干しを経た小魚と米加工品が並びます。水分が抜けると同じ100gにより多くの栄養素が詰まるため、乾燥度が高いほど数値は大きくなります。とびうおの焼き干しや田作り、煮干しはいずれもだし素材や少量使いが前提の食材であり、100gの数値がそのまま一食の摂取量に直結するわけではありません。

首位のベーキングパウダーは乾燥濃縮とは別の理由——配合するリン酸塩——で高い密度を示していますが、1回の使用量はごく数g。「100gあたりの密度の高さ」と「実際に食べる量」を切り離して考えると、成分表のデータはぐっと読みやすくなります。数値の裏にある食べ方の文脈まで合わせて見るのが、食品データを賢く活かすコツといえそうです。

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。