プロポリスは、ミツバチが植物の樹脂などを集めて作る物質で、フェノール化合物を豊富に含むことから、食品や健康関連の分野で関心を集めてきました。ただ、プロポリスの成分は採れる場所によって大きく変わることが知られています。さらに、口から摂取したプロポリスの中の有用な成分が、実際に体内でどれだけ利用可能な形で残るのかは、また別の問題です。今回紹介する研究は、トルコの複数の地域から集めたプロポリスを対象に、こうした産地による違いと、消化管を通過する過程での成分変化を調べたものです。
研究でわかったこと
この研究では、トルコの異なる地域で採取されたプロポリス試料について、水分含量、色、総フェノール含量(TPC)、総抗酸化能(TAC)を測定し、さらに人工的に胃や腸での消化を再現する「in vitro消化試験」を行うことで、消化の過程でこれらの成分がどう変化するかを調べています。
水分含量は100gあたり3.57〜6.30gの範囲で、いずれも品質基準として許容される範囲内だったとされています。一方で、色については地域によって明確な違いが見られたと報告されています。
総フェノール含量は、消化前の時点で乾燥重量100gあたり没食子酸相当量で2048.91〜6715.91mgと、試料によって大きな幅があったとされています。この総フェノール含量は、胃での消化段階で大きく減少し(81.98〜94.59%の減少)、その後の腸での消化段階では逆に増加する(3.18〜170.72%の増加)という傾向が示されました。つまり、胃を通過する間にいったん大きく減ってしまう成分が、腸に進むと再び増える方向に変化するという、興味深い挙動が観察されたことになります。
抗酸化能についても、消化の前後で変化が見られましたが、測定方法によって傾向が異なっていた点が特徴的です。CUPRACという指標では、胃での消化段階(74.89〜188.47%の増加)でも腸での消化段階(155.82〜328.38%の増加)でも大きく増加したとされる一方、DPPHおよびFRACという別の指標では、全体としては減少する傾向が見られたと報告されています。これは、プロポリスに含まれる様々な抗酸化物質が、それぞれ異なる安定性や反応性を持っていることを反映していると考察されています。
総じて、産地の違いはプロポリスの物理化学的な性質だけでなく、フェノール成分や抗酸化能、さらには消化管内での安定性にも影響を与えていたとまとめられています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、トルコ国内の複数地域のプロポリス試料を対象とした一つの研究であり、得られた知見がすべてのプロポリスや他の地域の試料に当てはまるかどうかは、この要旨だけからは判断できません。また、今回のin vitro消化試験は実験室内で消化管の環境を模したものであり、実際にヒトの体内で同じ変化が起きるかどうかを直接示すものではない点にも留意が必要です。研究自体も、特定の健康効果を証明したり、プロポリスの摂取を推奨したりするものではなく、産地に基づく特性の違いを明らかにし、今後の品質評価や製品開発に役立つ基礎的な情報を提供することを目的としたものとされています。
まとめ
今回の研究では、トルコ産プロポリスの水分・色・フェノール含量・抗酸化能が産地によって異なること、そして消化管内を模した環境下でフェノール含量や抗酸化能が胃相と腸相で対照的に変化することが示されました。プロポリスという身近な天然素材の中でも、産地や消化過程によって成分の「見え方」がこれほど変わりうるという点は、食品科学の観点からも興味深い知見といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:地理的原産地がトルコ産プロポリスの物理化学的特性、フェノール含量、抗酸化能、消化管内生体利用可能性に及ぼす影響(ギダ/ザ・ジャーナル・オブ・フード・2026年07月)