健康食品やサプリメントの素材として注目される微細藻類「クロレラ」。その一種であるクロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris)は、カロテノイドと呼ばれる色素成分を作り出すことで知られ、バイオテクノロジー分野でも幅広い応用が期待されています。カロテノイドはβ-カロテンやルテインなど、緑黄色野菜にも含まれることで知られる黄色〜オレンジ色の天然色素の総称です。クロレラは以前から数多く研究されてきましたが、栄養環境のストレス下で色素の組成がどのように変化するかを詳しく調べた研究は、実はそれほど多くなかったといいます。今回紹介する論文は、新たに分離されたクロレラ・ブルガリスの株を用い、窒素という栄養素の量を変えながら育てたときに、色素の種類や量がどう変わるかを詳しく調べたものです。
研究でわかったこと
研究チームはまず、新しく見つかったクロレラ・ブルガリスの株について、形やDNAの特徴から種の同定を行いました。そのうえで、BG11という培養液に窒素源(硝酸ナトリウム)を1.5、0.75、0.375、0gという4段階の濃度で加え、成長の様子や光合成の活動、色素の組成を培養期間を通じて観察しました。
色素の分析には高速液体クロマトグラフィー(HPLC)という手法が用いられ、合計12種類の色素が同定されたとのことです。この中には、クロレラ・ブルガリスでは一般的にはあまり見られないとされるフコキサンチンや19'-ブタノイルオキシフコキサンチンといった色素も含まれていたと報告されています。
特に注目されるのは、窒素を中程度に制限した条件(0.375g/l)での結果です。この条件下では、総カロテノイド含量がおよそ43%増加したとされ、しかもバイオマス(藻の収量)や光合成の健全性には悪影響が見られなかったと報告されています。さらにこの条件では、ルテイン、ビオラキサンチン、フコキサンチン、ゼアキサンチン、α-カロテン、β-カロテンといった複数の色素の含量がいずれも増加し、中でもルテインは乾燥重量1gあたり2.6mgという高い値に達したとされています。
研究チームは、今回の新しい分離株が、窒素という栄養条件の変化に応じて色素の組成を柔軟に調整する能力を持つことが示されたとしています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この論文は、特定の培養条件下におけるクロレラの色素産生に関する基礎的なデータを示したものであり、健康効果やヒトでの作用を直接検証した研究ではありません。カロテノイドの増加や特定色素の含有量については、あくまで今回用いられた分離株・培養条件下での結果であることに留意する必要があります。研究チームは、今回得られた詳細な色素データが、カロテノイドの収量を高めるための費用対効果の高い培養戦略に役立つ可能性を示すとともに、健康・栄養分野で使われる機能性成分の持続可能な供給源としてのクロレラ・ブルガリスの役割を裏づけるものだとしています。これは一つの研究による知見であり、今後さらなる検証が積み重ねられていく分野といえるでしょう。
まとめ
今回紹介した研究では、新たに分離されたクロレラ・ブルガリス株を用い、窒素濃度を変えて培養することで色素組成がどう変化するかが詳しく調べられました。中程度の窒素制限下で総カロテノイド含量が43%増加し、ルテインをはじめとする複数の色素の含量向上が確認されたと報告されています。培養条件の工夫によって微細藻類から得られる有用成分を効率的に増やせる可能性が示唆されており、今後の応用研究の展開が注目されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:窒素制限下における新規クロレラ・ブルガリス分離株のカロテノイド産生増強:成長段階を通じた色素多様性の動態(アプライド・フィコロジー・2026年07月)