この研究は、ベトナムの研究機関の研究論文です。

掲載誌:OpenAlex

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:注目されにくい水生作物のデンプンを見直す

研究チームが着目したのは、「難消化性デンプン(レジスタントスターチ、RS)」と呼ばれる成分です。これは小腸で消化されにくいデンプンのことで、論文の導入では、大腸の微生物によって発酵され短鎖脂肪酸を生み出すことから、腸の健康や血糖の調節に関わる成分として注目されてきたと説明されています。そのため食物繊維の一種として、機能性食品の素材に取り入れられてきました。

一方、研究の対象となったのはヒシ(Trapa bispinosa Roxb.)という水生作物のデンプンです。著者らはこれを、アジアの複数の国(ベトナムを含む)で栽培されながら十分に活用されていない、デンプンに富んだ作物だと位置づけています。ヒシのデンプンはアミロース含量や粒の形、結晶の組み立て方に独自の特徴があり、それが膨潤や糊化、老化(retrogradation)、消化されやすさに影響すると述べられています。

RSを増やす方法としては、プルラナーゼという酵素を使う手法がよく研究されてきました。この酵素はアミロペクチン(デンプンの枝分かれした成分)のα-1,6結合という「枝の付け根」を切り、直線的な糖鎖を生み出します。できた直線的な鎖は冷却中に再び寄り集まり、消化酵素が近づきにくい、より整った構造をつくるとされます。さらに、超音波を前処理として加えると、キャビテーション(泡の発生と崩壊)による力がデンプン粒を壊し、水や酵素が内部に入りやすくなると考えられてきました。ただし著者らは、こうした効果は素材そのものの構造に左右されるため、ほかのデンプンの結果をヒシにそのまま当てはめることはできないと指摘しています。ヒシのデンプンで超音波前処理がプルラナーゼ処理の効果を高めるのかは、未解明の問題として残されていたのです。

何を調べたか:4つの試料の比較と、酵素量・時間の組み合わせ

著者らはまず、ベトナムのドンタップ省で2025年8月から11月に採取した新鮮なヒシの実からデンプンを取り出しました。得られたデンプンの総デンプン含量は乾燥重量あたり99.0%で、酵素による加工に適した高い純度だったと報告されています。

最初の実験では、未処理のデンプン(NS)、超音波のみ(US)、プルラナーゼのみ(P)、超音波とプルラナーゼの併用(US+P)という4つを比べました。超音波は40 kHz・約400 Wで20分間、懸濁液の温度を40℃未満に保って行い、酵素処理は60℃で6時間、酵素量はデンプン1gあたり15 Uに固定しています。処理後はいずれも4℃で24時間保存し、老化(糖鎖が再び寄り集まる現象)を促しました。

次の実験では超音波前処理を共通の手順として固定し、プルラナーゼの量(デンプン1gあたり5〜20 U)と反応時間(2〜8時間)を変えた計16通りの条件を比較しています。消化されやすさは試験管内(in vitro)の方法で、すぐに消化されるデンプン(RDS)、ゆっくり消化されるデンプン(SDS)、難消化性デンプン(RS)の割合として測定されました。選ばれた条件の試料については、電子顕微鏡による表面の観察、赤外分光(FTIR)による分子レベルの規則性、X線回折(XRD)による結晶性、水や油をどれだけ吸うか(WAC・OAC)、加熱・冷却したときの粘り(RVA)などが調べられています。

主な報告結果:RSは約13%から約27〜28%へ

未処理のヒシデンプンは、すぐに消化される成分(RDS)が72.78%と最も多く、難消化性デンプン(RS)は12.95%と最も少なく、酵素で分解されやすい状態でした。超音波のみではRSは14.89%までのわずかな増加にとどまり、単独の処理としては変化が小さいと報告されています。プルラナーゼのみではRSが21.72%に増え、両方を組み合わせた場合には27.46%まで高まりました。この値はほかの3つと統計的に有意に異なっており、著者らは超音波前処理がその後のプルラナーゼ処理の効果を高めたと述べています。

酵素量と時間を変えた16条件では、どの酵素量でもRSは反応時間2時間から6時間へと増え、8時間ではわずかに下がる傾向が見られました。酵素量を5 U/gから10 U/gへ増やすとRSは大きく増えたものの、それ以上増やしても変化は比較的小さくなっています。最も高い数値を示したのは15 U/gで6時間の条件(28.15%)でしたが、著者らはこの値が10 U/gで6時間の結果と統計的な差はなかったと明記しており、以降の詳しい分析のための代表条件(UP)として選んだ、という位置づけで説明しています。なお8時間後にRSがやや下がる点については、分解が進みすぎると糖鎖が短くなりすぎて再び寄り集まりにくくなるためではないかと、既存の研究をふまえた推測として提示されています。糖鎖の長さの分布などは今回測定していないため、あくまで提案された説明だと著者ら自身が述べています。

構造の面では、電子顕微鏡で、未処理の粒が滑らかで整った表面を保っていたのに対し、超音波のみではわずかな表面の粗さや浅い亀裂が生じ、酵素処理では表面の侵食が目立ち、併用した試料では粒の断片化や表面の崩れが最もはっきり見られました。FTIRの指標(1047/1022の比)は未処理の0.912から併用試料の0.988へ上がり、相対結晶化度は31.82%から38.94%へ増加しています。ただしXRDについて著者らは慎重で、新しい結晶の型ができた十分な証拠はなく、もとのC型の組み立てが保たれたまま規則性の程度が変わったと解釈するのが適切だとしています。機能面では、水を吸う力が1.12から1.78 g/gへ、油を吸う力が0.91から1.15 g/gへ増え、一方でRVAで測った糊の粘度は大きく下がったと報告されています。

この研究が示すこと

この研究が伝えているのは、超音波という物理的な前処理が、酵素による加工の「下地」として働きうるということです。超音波だけでは消化されやすさはほとんど変わりませんが、デンプン粒の表面をあらかじめ傷つけておくことで、続く酵素が働きやすくなり、冷却中の再配列を経てRSの形成が進んだ、という筋立てになっています。

同時にこの研究は、分子レベルの規則性や結晶性の変化と、水や油の吸収、粘りといった扱いやすさに関わる性質が、互いに連動して動くことも示しています。著者らは、あまり活用されていないヒシという作物のデンプンについて、超音波とプルラナーゼの組み合わせがRSを多く含むデンプンをつくる有望な方法であり、機能性食品素材としての応用が考えられると結論づけています。

著者:Phan Văn Mẫn(Ba Ria–Vung Tau College of Technology, Ho Chi Minh City, Vietnam)、Thi Minh Phuong Ngo(Ba Ria–Vung Tau College of Technology, Ho Chi Minh City, Vietnam)、Thi Thao Ngan Do(Ba Ria–Vung Tau College of Technology, Ho Chi Minh City, Vietnam)、Thi Thu Huyen Luyen(Ba Ria–Vung Tau College of Technology, Ho Chi Minh City, Vietnam)、Tien Thao Duong(Ba Ria–Vung Tau College of Technology, Ho Chi Minh City, Vietnam)、Ngoc Minh Tran(Ba Ria–Vung Tau College of Technology, Ho Chi Minh City, Vietnam)、Chi Hai Tran(Ho Chi Minh City University of Industry and Trade, Ho Chi Minh City, Vietnam)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Phan Văn Mẫn, Thi Minh Phuong Ngo, Thi Thao Ngan Do, et al. Ultrasound-assisted pullulanase modification increases resistant starch content and alters the structure–function properties of water caltrop starch. OpenAlex 2026-09-28. DOI: 10.3897/sti.e209539. 原著ライセンス:CC BY.