スーパーや飲食店で売られている羊肉のスライス肉。実は、そのすべてが「そのままの肉」とは限りません。加工処理を施した肉や、複数の肉片を結着させて成形した「再構成肉」が、本物の羊肉スライスと似た見た目で流通しているケースがあり、消費者にはなかなか見分けがつきません。こうした不正な混入や表示の問題は、食の安全や信頼にとって気になるテーマです。今回紹介する研究では、特別な検査機器ではなく、身近な「スマートフォンで撮った写真」を使って、この見分けを自動で行う方法が検討されました。
スマホ画像とAIで肉を見分ける仕組み
研究チームは、標準化された条件のもとでスマートフォンにより600枚の羊肉スライス画像を撮影しました。そこから、RGB・HSV・Labといった複数の色空間での色の特徴と、画像のきめ細かさや模様のパターンを数値化する「GLCM(グレーレベル同時生起行列)」というテクスチャ特徴を抽出しています。統計的な解析(クラスカル・ウォリス検定やダン検定、主成分分析)を行った結果、本物・加工品・再構成品のあいだで、こうした特徴に統計的に意味のある違いがあることが確認されたと報告されています。
続いて、これらの特徴をもとに、KNN・LDA・RF・SVMという4種類の機械学習モデルと、VGG16・ResNet50・InceptionV3という3種類の深層学習モデル(転移学習を用いた畳み込みニューラルネットワーク)が構築され、識別性能が比較されました。その結果、機械学習モデルの中ではSVMが最も高い分類性能を示し、深層学習モデルの中ではVGG16が最も優れており、平均96.42%(標準偏差0.51%)という精度が得られたと報告されています。
誤って分類されやすかったのは主に「加工品」で、本物にも再構成品にも似た見た目の特徴を持つため、判別が難しくなる傾向があったとされています。さらに、Grad-CAMという可視化技術を用いてAIが画像のどこに注目して判断しているかを調べたところ、筋肉と脂肪の分布に関係するテクスチャや構造の部分に注目していたことが示されており、AIの判断根拠をある程度解釈できる結果になったと報告されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、あくまで研究段階で得られた結果であり、実際の市場やサプライチェーンでどこまで実用化できるかは今後の検証が必要です。論文では、スマートフォンで撮影したRGB画像と機械学習・深層学習を組み合わせた手法が、市場での監視やサプライチェーンの検査における「低コストで簡便な一次スクリーニング手法」として役立つ可能性が示唆されている、という位置づけで述べられています。特定の機器を使わずスマホだけで判定できるという手軽さは注目に値しますが、一つの研究で得られた結果であり、結論が確定したわけではない点には留意が必要です。
まとめ
この研究では、スマートフォンで撮影した羊肉スライスの画像から色やテクスチャの特徴を取り出し、機械学習・深層学習によって本物・加工品・再構成品を識別する試みが行われ、深層学習モデルのVGG16で96%を超える精度が得られたと報告されています。特別な機器を使わない手軽な検査手法として、今後の食の安全対策への応用が期待される一方、実用化に向けてはさらなる研究の積み重ねが必要といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:スマートフォン画像を用いた機械視覚による羊肉スライスの不正混入の高精度識別(フーズ・2026年07月)