高タンパク食品への世界的な需要の高まりを背景に、アワビのような高品質な水産物への関心が高まっています。アワビは古くから食材として利用されてきましたが、その体内のミネラル含量や栄養成分が季節によってどう変化するのかは、意外と身近な疑問かもしれません。今回紹介するのは、インドネシア・バリ島の沿岸で、天然アワビ(Haliotis squamata)とその周辺の海水、そして海藻の一種であるホンダワラ属(Sargassum sp.)を対象に、雨季と乾季でマグネシウム(Mg2+)とカリウム(K+)の濃度がどのように変わるかを調べた研究です。

研究でわかったこと

研究チームは、2023年の雨季と乾季に、インドネシア・バリ島ジェンブラナ県プクタタンの沿岸海域でサンプルを採取しました。原子吸光分光光度法(AAS)という手法を用いてアワビの組織、周辺海水、ホンダワラ属中のマグネシウムとカリウムの濃度を測定するとともに、アワビの身とホンダワラについて一般成分(タンパク質や水分などの栄養組成)の分析も行われました。

その結果、アワビの身と殻では、雨季の方がマグネシウムとカリウムの濃度が高いことが示されました。ホンダワラ属についても同様に、雨季の方がイオンの蓄積量が多い傾向が見られたとのことです。一方、周辺の海水では対照的な傾向が確認され、マグネシウム濃度は乾季に、カリウム濃度は雨季に、それぞれ高くなっていました。

栄養成分の分析では、アワビの身のタンパク質含量(48.03±0.89%)と水分含量(21.56±0.90%)が雨季に高くなることが示されました。これに対しホンダワラ属では、灰分(ミネラルなどを含む無機成分)を除くほとんどの栄養成分が乾季に高くなっており、灰分だけは雨季に最も高い値(48.94±0.63%)を示したと報告されています。

研究チームはこれらの結果について、季節の変化が水生生物のイオン取り込みや栄養の質に、環境要因と生物側の生理的な反応が複雑に絡み合うかたちで影響を与えていることを示唆する、とまとめています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、バリ島の特定の沿岸海域で採取されたサンプルをもとにした一つの調査であり、得られた傾向がすべてのアワビやホンダワラ属、あるいは他の海域にもそのまま当てはまるかどうかは、この要旨だけからは分かりません。また、マグネシウムやカリウムの濃度変化と栄養成分の変化を報告するものであり、それを食べることでどのような健康効果があるかを直接検証したものではない点にも留意が必要です。季節変動のメカニズムについても「複雑な環境・生理的相互作用」が示唆されるとされているにとどまり、詳細な因果関係が確定したわけではありません。

まとめ

今回の研究では、バリ島沿岸のアワビ、海水、ホンダワラ属を対象に、雨季と乾季でマグネシウムとカリウムの濃度や栄養成分がどのように変化するかが調べられました。アワビの身やホンダワラでは雨季に両イオン濃度が高まる一方、海水中の濃度変化はマグネシウムとカリウムで異なる傾向を示すなど、季節による興味深い変動が報告されています。水産物の品質を考えるうえで、季節という要因がどう関わってくるのかを考える一つの手がかりになりそうな研究といえるでしょう。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:雨季と乾季における海水、アワビ、ホンダワラ属(Sargassum sp.)中のマグネシウムおよびカリウム濃度(インドネシア水産養殖ジャーナル・2026年07月)