著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

近年、食べ過ぎや脂質の多い食事によって肝臓に脂肪がたまる「代謝関連脂肪性肝疾患(MAFLD)」が世界的に増えていると指摘されています。この病気の背景には、腸と肝臓が密接に情報をやり取りする「腸肝軸」の乱れが関わっていると考えられており、腸内細菌のバランスや腸のバリア機能の異常が、肝臓の炎症や脂肪蓄積につながる可能性が議論されています。しかし、こうした腸肝軸に着目した効果的な対策はまだ限られているのが現状です。

今回紹介する研究は、ラン科植物であるシラン(Bletilla striata)に由来するオリゴ糖「BSO」に着目したものです。BSOにはもともと免疫を調節する働きの可能性が報告されていましたが、腸肝軸を介してMAFLDにどう関わるのかは、これまではっきりしていませんでした。そこで研究チームは、BSOが腸内細菌叢や腸のバリア機能、肝臓の炎症をどのように調節し、MAFLDの改善につながりうるのかを、マウスを用いて検証しました。

研究でわかったこと

実験では、マウスに8週間高脂肪食を与えてMAFLDの状態を誘導した後、BSO(150、300、600 mg/kgの3つの用量)、または比較対象として糖尿病治療薬であるメトホルミンを、12週間にわたって経口投与しました。

その結果、高用量のBSOを投与された群では、MAFLDモデル群と比べて体重増加が抑えられ、空腹時血糖値が低下し、肝臓のトリグリセリド(中性脂肪)量も減少したと報告されています。また、肝臓の損傷や脂肪肝の程度、炎症についても軽減がみられたとされています。

そのメカニズムとして、BSOは腸のバリア機能を回復させ、大腸のタイトジャンクションタンパク質(細胞同士の結合を保つたんぱく質)の発現を高めるとともに、大腸のLXRα/ABCA1という脂質代謝に関わるシグナル経路を活性化させたことが示されました。同時に、肝臓側ではTLR4/NF-κBという炎症に関わる経路の働きを抑えたことも確認されています。

さらに、BSOの投与によって腸内細菌叢の構成が変化し、有用菌とされるLachnospiraceae科やOscillospiraceae科の細菌が増加したことも報告されています。肝臓内の代謝物についても変化がみられ、confertifolineという物質が減少する一方で、D-ミオイノシトール-4-リン酸が増加したとされています。加えて、腸のFXR/FGF15という胆汁酸代謝に関わる経路が活性化され、胆汁酸代謝の乱れが改善する方向に働いたことも示されており、その指標としてタウロ-ω-ムリコール酸やコール酸の減少が確認されたとのことです。

これらの結果から研究チームは、BSOが腸内細菌叢の変化、腸バリアの回復、LXRα/ABCA1およびFXR/FGF15経路の活性化、そして肝臓のTLR4/NF-κBを介した炎症反応の抑制という、複数の標的にまたがる腸肝軸のメカニズムを通じてMAFLDを緩和する可能性があると結論づけています。あわせて、従来のアプローチと比較して、BSOは複合的な調節作用を持ちながら安全性の面でも good favorable な特性を備えていると論文では述べられています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究はマウスを用いた動物実験であり、ヒトに同様の効果が確認されたわけではない点に注意が必要です。あくまで一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。ヒトでの効果や安全性、適切な摂取量などについては、今後さらなる検証が必要になると考えられます。

また、論文では、BSOが「食品サプリメントやプレバイオティクス(善玉菌を増やす成分)としての応用可能性を持つ有望な候補」であるとされていますが、これは今回の研究結果に基づく今後の可能性についての言及であり、現時点でBSOがMAFLDの予防や治療に使えると断定するものではない点は留意しておきたいところです。

まとめ

今回のマウスを用いた研究では、シラン由来のオリゴ糖BSOを高脂肪食誘発性のMAFLDモデルマウスに投与したところ、体重増加や肝臓の脂肪蓄積の抑制、腸内細菌叢の変化、腸のバリア機能の回復、肝臓の炎症を抑える複数のシグナル経路の変化などが観察されたと報告されています。腸と肝臓のつながり(腸肝軸)に着目した多面的なアプローチとして興味深い知見ですが、ヒトでの効果はまだわかっておらず、今後の研究の進展が注目されます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):シラン(Bletilla striata)由来オリゴ糖は腸内細菌叢と宿主代謝の調節を通じて高脂肪食誘発性代謝関連脂肪性肝疾患を緩和する(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年07月)

著者:Kaiwen Lei(Guangdong Engineering Research Center of Natural Products and New Drugs, Guangdong Provincial University Engineering Technology Research Center of Natural Products and Drugs, Guangdong Pharmaceutical University, Guangzhou, China)、Jie Li(Guangdong Provincial Key Laboratory of Pharmaceutical Bioactive Substances and School of Basic Medical Sciences, Guangdong Pharmaceutical University, Guangzhou, China)、Kunhua Wei(Key Laboratory of State Administration of Traditional Chinese Medicine for Production and Development of Cantonese Medicinal Materials, Guangzhou Comprehensive Experimental Station of National Industrial Technology System for Chinese Materia Medica, Guangdong Engineering Research Center of Good Agricultural Practice and Comprehensive Development for Cantonese Medicinal Materials, School of Chinese Materia Medica, Guangdong Pharmaceutical University, Guangzhou, China)、Yan Bai(Health Sciences Academy, Guangzhou Nanyang Polytechnic College, Guangzhou, China)、Jianwen Mao(Guangdong Provincial Key Laboratory of Pharmaceutical Bioactive Substances and School of Basic Medical Sciences, Guangdong Pharmaceutical University, Guangzhou, China)、Zhengquan Su(Guangdong Engineering Research Center of Natural Products and New Drugs, Guangdong Provincial University Engineering Technology Research Center of Natural Products and Drugs, Guangdong Pharmaceutical University, Guangzhou, China)