「パンヤ」という植物をご存じでしょうか。学名をCeiba pentandraというこの木は、繊維が豊富な果実で知られ、伝統医療や産業用途でも利用されてきましたが、その葉については十分に活用されてこなかった素材だとされています。今回、この葉を乳酸菌の一種であるLactobacillus plantarumを使って発酵させると、栄養面や機能性にどのような変化が起こるのかを調べた研究が、フロンティアーズ・イン・サステナブル・フード・システムズ誌に2026年7月に掲載されました。発酵食品は世界中で古くから作られてきましたが、あまり知られていない植物の葉に応用した場合にどんな成分変化が起こるのかは、興味深いテーマといえます。
研究でわかったこと
研究チームは、乾燥させたパンヤの葉を0日、1日、3日、5日という異なる期間、Lactobacillus plantarumで発酵させ、その栄養価や機能性成分の変化を調べました。比較対象としては、広く食用にされている「モロヘイヤ(Corchorus olitorius)」の葉が用いられています。栄養成分や抗酸化能は標準的な分析手法で、α-アミラーゼや乳酸脱水素酵素(LDH)といった酵素活性は専用の測定キットで、ビタミンや植物由来化学成分(フィトケミカル)は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)という精密な分析装置で調べられました。
結果として、発酵させたパンヤの葉は、モロヘイヤの葉と比べてpH、細菌の増殖、灰分(ミネラル分の指標)が有意に高くなった一方、鉄・マンガン・粗繊維の含有量は有意に低くなったと報告されています。また、抗酸化能を示すFRAPという指標は、発酵によってパンヤの葉で19.11%、モロヘイヤの葉で13.63%それぞれ有意に低下し、両者は同程度の水準になったとされています。LDH(乳酸脱水素酵素)活性は発酵期間が長くなるにつれて有意に増加し、パンヤの葉で11.98%、モロヘイヤの葉で2.93%の増加が確認されたということです。
さらに注目される点として、発酵させたパンヤの葉には、検出された16種類の生理活性成分のうち、ギンセノシド(717.824 mg/100 mg)、カテキン(129.459 mg/100 mg)、ケンフェロール(112.745 mg/100 mg)、ルチン(63.263 mg/100 mg)、ステビオシド(60.632 mg/100 mg)、サポニン白(52.617 mg/100 mg)、カフェイン酸(48.909 mg/100 mg)、レスベラトロール(9.037 mg/100 mg)などが、この順に多く含まれていたと報告されています。研究チームは、発酵させた葉は栄養面で豊富であり健康上の利点があるとしたうえで、LDHがこの乳酸菌による発酵に関わる生化学的な指標であることが示されたとまとめています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、パンヤの葉という限られた素材を対象に、特定の発酵条件・期間で行われた実験に基づくものであり、ヒトが実際に摂取した場合の効果や安全性を直接検証したものではない点に注意が必要です。あくまで一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。今回示された成分変化や抗酸化能の数値も、この実験条件下での結果として理解するのがよいでしょう。パンヤの葉を日常的に食べる習慣がある地域は限られると考えられ、今後さらに研究が積み重ねられることで、その栄養学的な位置づけがより明確になっていくと期待されます。
まとめ
今回の研究では、あまり利用されてこなかったパンヤの葉を乳酸菌Lactobacillus plantarumで発酵させることで、灰分や菌数の増加、鉄・マンガン・粗繊維の減少といった変化に加え、ギンセノシドやカテキンをはじめとする多様な生理活性成分が確認されたことが報告されています。また、乳酸脱水素酵素(LDH)がこの発酵プロセスに関わる生化学的な指標として位置づけられることも示唆されました。発酵という古くからの技術が、身近ではない植物素材の新たな可能性を引き出すヒントになるかもしれない、そんな興味深い研究だといえるでしょう。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:Lactobacillus plantarumを用いた発酵がパンヤ(Ceiba pentandra)の葉の健康効果と機能的役割に及ぼす影響(フロンティアーズ・イン・サステナブル・フード・システムズ・2026年07月)