著者の所属・活動拠点の国は、ギリシャです。
掲載誌:Fishes
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:駆除した外来の貝を価値ある水産品にできるか
地中海の沿岸では、本来その地域にいなかった外来種が定着し、生態系や経済に影響を与えています。研究チームが注目したのは、インド・太平洋原産の二枚貝 Pinctada radiata(ラディアータ真珠貝)です。スエズ運河を経て東地中海に広がり、繁殖期間が長く、新しい個体が絶えず加わるため、密度の高い群れを長く維持していることが報告されています。
この研究の目的は、天然の群れから監視のもとで取り除いた(駆除した)貝を加工して付加価値のある水産品にした場合、ギリシャで採算が取れるかを評価することです。駆除にかかる費用の一部を販売収入で埋め合わせられるかどうかを確かめる狙いがあります。著者らは、この貝の養殖、増殖、別の海域への移植は一切提案しないと明記しています。利用はあくまで個体数を減らす取り組みの一部と位置づけられています。
何をどのように調べたか
材料となる貝は、アテネ近郊サロニコス湾奥部の天然の群れから採取されたものです。この海域は、EUの食品安全規則のもとで直接消費用の二枚貝の採取が認められている区域です。さらに安全確保のため、すべての貝に浄化処理(きれいな海水で一定時間飼って体内の汚れを出させる工程)を行う前提とし、その費用も計算に含めました。
想定した製品は4種類です。生のむき身の冷凍真空パック、パン粉をまぶした生むき身の冷凍真空パック、蒸してから塩水に漬けて燻製風味をつけた真空パック、そして蒸した身をオリーブオイルと地中海ハーブに漬けた瓶詰めです。いずれも既存の貝類加工施設で製造できるものが選ばれました。原料の配分は、加工が簡単で費用も低い冷凍品2種にそれぞれ35%、残りの2種にそれぞれ15%としました。
費用と運営のデータは、2024年に地域最大の認可貝類出荷・加工施設の管理者と、経験豊富な商業ダイバーへの聞き取りから得ました。設備の価格は業者の見積もりによります。原料の買い取り価格(1kgあたり1.50ユーロ)は、施設が実際に採取者へ支払った額です。モデルでは、1日300kgの生の貝を年150日処理し、年間4万5000kgの原料から約9038kgの製品を作ると想定しました。著者らは、この量は現在の採取能力にもとづく試算の前提にすぎず、持続的に取り除ける量の推定ではないと注意しています。
評価は5年間の現金の出入りを積み上げる方式で行われました。物価は一定とし、インフレは考慮していません。資金調達については、初期投資を全額自己資金でまかなうシナリオAと、60%を公的補助でまかなうシナリオBの2通りを比べました。
主な結果:どちらのシナリオでも黒字の見込み
必要な初期投資は8万5800ユーロでした。冷蔵・冷凍設備、燻製室、真空包装機などが含まれます。年間売上は約21万4000ユーロと見積もられました。減価償却を含む年間生産費は約15万4000ユーロで、最大の費目は原料の貝の購入費(6万7500ユーロ)、次いで人件費、浄化処理費でした。税引き前の年間営業利益は約5万9500ユーロ、30%の税を差し引いた年間の手元に残る現金は約5万240ユーロと算出されました。
全額自己資金のシナリオAでは、5年間で積み上がる正味の現金は約16万5400ユーロでした。収益性指数(投資額に比べてどれだけの現金が戻るかを示す指標)は2.93で、投資の回収には約1.71年かかります。公的補助60%のシナリオBでは、事業者の負担は3万4320ユーロに減りました。5年間の累計は約21万6900ユーロ、収益性指数は7.32、回収期間は約0.68年となりました。
ただし論文は、シナリオBの数値が良いのは事業者の自己負担が減ったためであり、生産量・売上・運営費などの事業そのものは両シナリオで同じだと強調しています。事業全体の費用に対する便益の比率は、どちらも1.25でした。
この研究が示すこと
この研究は、監視下で駆除した外来の貝を既存の加工施設で付加価値製品にする方法が、ギリシャの現状にもとづく条件で採算の取れる可能性を、実際の費用データを使って示しました。著者らによれば、この貝についてこうした経済性を評価したのは今回が初めてです。
一方で論文は、この方法が個体数の抑制という本来の目的を補うものであるべきだと述べています。そのためには、状況に応じて見直せる管理体制と生物多様性の保護が欠かせないとしています。本格的な環境リスク評価はこの研究の範囲外とされています。外来種の管理と地域の水産業を結びつける一つの経済モデルとして、地中海の他の沿岸地域でも応用できる枠組みが提案されています。
原著論文の著者・所属:Ioannis C. Kilitzidis(Department of Fisheries & Aquaculture, University of Patras, 302 00 Messolonghi, Greece)、Maria Kamilari(Department of Fisheries & Aquaculture, University of Patras, 302 00 Messolonghi, Greece)、Orestis Anagnopoulos(Advanced Planning & Consulting SA (APC S.A.), 106 73 Athens, Greece)、Nikos Bourdaniotis(Advanced Planning & Consulting SA (APC S.A.), 106 73 Athens, Greece)、John A. Theodorou(Department of Fisheries & Aquaculture, University of Patras, 302 00 Messolonghi, Greece)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ioannis C. Kilitzidis, Maria Kamilari, Orestis Anagnopoulos, et al. Removal-Based Valorization of the Invasive Pearl Oyster Pinctada radiata (Leach, 1814): Economic Feasibility of Value-Added Seafood Processing in Greece. Fishes 2026-09-21. DOI: 10.3390/fishes11090558. 原著ライセンス:CC BY.